007 不良さんが、崇秀に対して気になる事

「んっ?なんだ?なにを神妙な顔してんだ、オマエ?」


コイツは、昔から矢鱈と勘が良い。

素早く、そんな俺の心境の変化に気付き。

先程まで、アッケラカンと俺の前を歩いていただけなのに、突然声を掛けてきた。



「別に、何でもネェよ」


だが、そう言うメンタルな部分を悟られるのが俺は嫌だったので、素っ気無い返事を返す。



「あっそ」


付き合いが長いせいも有るんだろうが。

俺が何かに悩んでる雰囲気を醸し出してる時、崇秀は、なにかが解っていても、変な事を無駄に勘繰らない。


この辺については、俺が悩むポイントを理解している証拠なんだろうな。

だから恐らくは、俺が今考えている事もお見通しの状態で、この態度を取ってくれているのが手に取る様に解る。


此処だけは、本当に有難いと思う。


それにしても以前から不思議に思っていたんだが……

『なんでコイツは、俺みたいなヤクザモドキの不良となんかとつるむんだろうか?』


こう言っちゃあなんなんだが、実際、崇秀は学校での成績も良いし、こんな感じでも人当たりも良い。

だからヤクザの息子なんかと遊んでも、世間の目は冷たいだけだし、下手をすれば内申書にすら響く恐れがある。

それこそ俺との付き合いなんて『百害有って一利無し』だと思うんだがな。


だけどコイツは、そんな事はお構いなしと言わんばかりに、俺との付き合いを持ち続けてくれる。


ホント、コイツだけは何考えてんだかな?



「よぉ、馬鹿秀よぉ」

「なんだよ?」

「前から気になってたんだが。オマエ、なんで俺なんかとつるむんだ?」

「はぁ?何の話だ、急に?」


質問が突飛過ぎたのか。

少し眉間に皺を寄せた変な顔をしながら、こちらに向けながらバックステップやって来た。



「イヤな。別に他意はねぇんだけどな。オマエも知っての通り、俺の親父ってヤクザ者だろ」

「あぁ、そうだな」

「だったらよぉ。それを知ってんなら、普通は俺なんかを避けネェか?」

「まぁ、普通は避けるだろうな……んで?」


『んで?』も糞もネェよ。

俺は、なんでそんな不利益を被る奴なんかと遊ぶんだ?って聞いてんだよ。


そんな風にしらばっくれてねぇで、いつもみたいに超能力で、それぐらい察しろよな。



「だからよぉ」

「あぁ……なんだ、そう言う事か」

「んで、どうなんだよ?」

「そんなもん、言わせたい奴には勝手に言わせとけ。俺の知った事か」

「なっ」

「俺はな。快楽主義だから、自分が楽しいと思った奴としか遊ばネェの、ただそれだけのこった」

「けどよぉ、だったら世間の目って奴は、どうなんだよ?気にならねぇのか?」

「アホくせぇ、んなもん気にもなんねぇよ」

「なっ、ならねぇのか?マジで全然ならねぇのか?」


俺が世間の目を気にし過ぎてるだけなのか?


崇秀は、俺に向かって断言にも似たセリフを吐く。



「あぁならねぇな。全くならねぇ。気にする必要すらねぇ」

「そっ、そうか」

「ってかよぉ。良いか、馬鹿津?オマエと付き合って遊んでる以前の問題としてな」

「おっ、おぅ」

「俺は学校の成績も悪くないし、運動神経も、そこら辺のクラブやってる奴より、ズッと良いだろ」

「あぁ、まぁな」


んだ?

急に、自慢たらしい事を言い始めたな。


まぁ、なにも間違っちゃいネェから、反論はねぇがな。


糞秀は、学業の成績は勿論、運動能力にも特化している。

勉強・運動に限らず、何をやらせても要領良く上位に食い込む。

大半の事だったら、何をやらせても、それなりに上手く出来てしまう素晴らしくイヤな奴だ。



「その上でだ。俺は先公やクラスの奴に対しても、人当たりは悪くないだろ。まぁ所謂1つの完璧人間って奴だ」

「あっ、あぁ」


クッソうぜぇ。

まさか、自慢に自慢を重ねて来るとは思わなかった。


マジうぜっ!!


ってか。

んな、ツマンネェ自慢話なんかはどうでも良いからよぉ、早く理由を言いやがれつぅ~の!!



「まぁ、何が言いたいかって言うとだな」

「あぁ、んだよ」

「要はやる事やってりゃ、他人の目なんか気になんねぇんだよ。それが俺に対する世間の評価って奴なんだからな……それに誰かさんと違って勤勉なの、俺わ」

「グッ!!」

「……だからな」

「だから?だからなんだよ?まだなんかあるのか?」

「だから俺みたいな完璧人間には、オマエみたいな弱点みたいな奴が必要なんだよ……なにもかもが完璧過ぎると、みんなに嫌われるからな。ハハハッ、それが理由だ」

「テッ、テメェ!!」


そんな嫌味とも取れる憎まれ口を叩いてはいるが。

コイツが本心から、そんな嫌味を言ってはいないのだけは良く解っている。


コイツは心底イヤな奴なんだが、そう言う面だけは信頼出来る。


だがよぉ。

言われっぱなしって言うのも癪に障る。

だから取り敢えず、怒った振りをして、奴の頭を小脇に抱えてヘッドロックを掛けてやる。


喰らえ!!俺の怒りのヘッドロックを!!



「イテェ!!テメェ、急に何すんだよ!!つぅか、脇クセェ脇!!本心だからやめろつぅの。つぅか、マジでくせぇっての!!」

「誰の脇がクセェって?テメェは一回死ね」

「テメェの腋臭がクセェんだよ!!死ぬ。軽く死ぬつぅ~の。離しやがれ!!」


ヘラズ口を叩きながら、俺の横腹に思い切りボディブローを容赦なくかましてきやがる。

しかも、その一発一発が、ズンズンっと胃に来る重いパンチ。

とても素人が打ってるショートブローの威力じゃねぇぞ。


俺は、あまりの痛さに、ヘッドロックの解除を余儀なくされた。



「いってぇ~~~っ」

「ったく、ガキじゃねぇんだから、街中でそう言うのはやめろつぅ~の。しかも、テメェのせいで髪が乱れただろうが」

「知るか。テメェがナメた事を言うからだろうがぁ」

「チッ!!テメェで聞いといて、それかよ。我儘な野郎だな」

「うっせぇつぅ~~~の」


自分で聞いといてなんだが、少し喧嘩腰になってぞ俺。

このままだと、次に糞秀が、またイラネェ事を言ったら、マジで殴りそうな勢いだ。


そんな俺を尻目に、奴が次に発した言葉は、こんな感じだ。



「まぁ、良いっか……髪ぐれぇ、直ぐに治せるしな」


髪の毛を手櫛で整えながら、なんとも気の抜けた答えだ。


勢いをつけてただけに、ガクッと腰に来る切り返しだな、オイ。


ホントなんなんだよ、オマエのそのアッサリした性格は!!

せめてもうちょっと、ボケるなり突っ込むなりしろっちゅ~の!!


なんて思っていたら、そこに……



「ヒデくん遅くなって、ごめん……って、倉津さん……なっ、なんで?」

「って、マコやんけ」

「あぁ?」


崇秀と馬鹿話をしてたら、誰かが声を掛けてきやがったな。


誰だ?


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い、ありがとうございました<(_ _)>


クズの倉津君にも、ちゃんとした友達は居るみたいですね。

まぁ、言うまでもなく、この崇秀と言う男も……かなりの変人ですけどね(笑)

(*'ω'*)b

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