005 不良さん、照れながらもコンパについて行く

「そうだな……まっ、ツマンネェ話になって悪かったな。またオモシレェ話でも思いついたら、声掛けてくれよ」


カツアゲ運用法についての話が終わった途端。

崇秀は、俺に別れを告げて、何処かに行く様な素振りを見せて来るんだが……何処行くんだコイツ?


「なんだよ、急に。何処かに行くのか?」

「あぁ?」

「この後、暇なんだったら、このまま一緒に、どこかに遊びに行こうぜ……それとも、なんか大事な用事でもあんのか?」

「はぁ……なにを聞いてるのかと思えば、このトンチキだけわ」

「んでだよ?」

「わざわざ野暮い事を口に出して聞いてんじゃねぇぞ。女だよ女、女に決まってるだろうがよ。……じゃあな」


マジか?

確かコイツ、つい先週、3年の生田小夏先輩と別れた所じゃなかったか?

それに確か、その時『もぅちょっとの間、彼女は作らねぇ』とかぬかしてやがった気がするんだが……


舌の根も乾かねぇ内に、新しい彼女を作ったって言うのか?


信じられねぇ程の『女誑し』だな。



「ちょ……だったら俺も連れて行けよ」

「んっ?なんだよ、オマエも行きてぇのか?」

「いや、別に、特別そう言う訳じゃねぇけどよぉ。やっぱ、無理か?」


まぁ、俺、ヤクザの息子だからな。

それだけでも場の空気が悪くなるかも知れねぇから、流石に無理にとは言えねぇんだよな。


コイツのも立場ってもんがあるだろうしよ。



「いや、別に良いぞ……但し、その代わりだな」

「なんだよ?」

「これから行くカラオケ代、オマエ持ちな」

「はぁ?なんだよ、イキナリその酷い条件は。意味が解んねぇぞ」

「良いじゃねぇか、良いじゃねぇか。カツアゲした泡銭がたっぷりあんだろ。拾った他人の金、ケチケチしてんじゃねぇの」

「まぁよぉ」

「まぁそぅ深く考えんなって。何も全額出せなんて、鬼みてぇな事は言わねぇからさ」

「はぁ?なんだよそれ?どういう事だよ?」

「なぁ~にな、女子の分だけ、お前が出してくれれば良いんだよ……因みに女の子は3人来るけどな」


なんかコイツ、俺に対して上手い事言ってないか?


妙に嫌な予感がするぞ。


だってよぉ。

まずこの女誑しのアホの口ぶりから言って、今から逢うのは彼女とではなく、なにやら複数の女と遊ぶ事は解った。

そして、それと同時に女が3人来るのってのも解ったんだがな。


まぁ、そこは良いとしよう。

これは、女と遊ぶんだから問題は無い。

いや、寧ろ、俺達、男2人に対して女が3人、かなり良い条件だとは思える。


んで、その内1人はコイツの彼女な訳だから、3人の内1人は消える訳なんだが。

女子が残り2人に成ったとしても、まだまだ、これが好条件なのも変わりない。


これも本当に悪くないとは思う。


……ただなぁ。

問題なのは、その今から遊ぶと言われてる女の容姿なんだよなぁ。

この残った女達が、世間で言われる『美人』や『可愛い』と言うカテゴリーに入ってるなら問題はないんだが、必ずしもそのカテゴリーに入ってるとは限らない訳だろ。


だったら、いくら人数的には好条件だと言ってもだな。

ブス2人に囲まれても全然嬉しくもないし、そいつ等の為に金出すのは、なんか嫌なんだよなぁ。


この気持ち、男なら解ってくれるだろ。


なので、その辺は、どうなんだろうな?



「・・・・・・」

「オイ。オマエさぁ。一体、なにをそんなに神妙な面をしてんだよ?」

「いや、来る女ってブスじゃないだろうな?」

「はぁ……お前ねぇ。誰が、友達にブスなんかを紹介するかよ。俺は、そこまで落ちぶれちゃいネェよ。写真で見た限り、マンガに出てきそうな女子だったぞ」

「へっ?マッ、マジか?」


俺は単純過ぎるのか?

崇秀の言う『ブスじゃない』って言葉だけに、素早く反応した。


いや……嘘。

実は、本当はそうじゃないんだよな。

俺が反応した言葉ってのは『ブスじゃない』言葉じゃなく、馬鹿秀の言った、あるキーワードに反応しただけなんだ。


『マンガに出てきそうな女の子』

この言葉には、一瞬にして心を奪われた。


って言うのもな。

実は俺、こんな形(なり)をしている不良な訳なんだが。

実家の職業の事もあって、逆にヒーローものとかに憧れてて、アニメとか、漫画とかが大好きなんだよな。


所謂、そう言う家の事情もあって、結構な重度のオタクなんだよ。


まぁ当然、学校なんかじゃ、不良の癖にオタクだとか思われるのは、あんまりカッコイイもんじゃねぇから隠してるけどよぉ。


そんなオタクな俺の前に、マジでマンガに出て来る様な可愛い女子が現れてみろよ。

緊張して、それこそなんも言えなくなるぜ。

しかもよぉ、その子が、滅茶苦茶性格が良かったらどうするよ。


ヤベッ!!変な妄想して無駄にドキドキしてきた。



「まぁソイツは見てのお楽しみって奴だ……あぁそれとさぁ」

「なっ、なんだよ?」

「別に、そいつ等の中に俺の彼女とかはイネェから、どれでも好きなのお持ち帰りしても良いぞ。……選り取り見取りの大セールって奴だ」


『お持ち帰り』に『大セール』って……オマエねぇ。

俺はまだ、オマエみたいに、コンパ慣れした大学生みたいな振る舞いなんざ出来ねぇの。


いくら俺が不良だからと言っても、所詮は、ただの中学生。

普通に『お持ち帰り』なんて大それた事は考えてネェつぅの。

それに第一俺はコンパ初心者だから、そんなに上手く立ち回れる訳がねぇだろがよぉ。


そこんとこ、キッチリ忘れんな。


それにしても、本当にマジで、コイツのこの余裕って、どこから来んだろうな?

腹立たしいやっちゃな。



「・・・・・・」

「おい、ピュアボーイ。しっかりしてくれよ。逢う前から、なに興奮してんだよ」

「しっ、してねぇよ」

「あっそ。んじゃよぉ、今日で馬鹿津も童貞卒業だな。キヒヒ……」

「なっ、なに言ってやがる!!ばっ、馬鹿じゃねぇのか!!」

「まぁ、俺は知っての通り、馬鹿じゃないな……それよりオマエの方こそ、顔真っ赤にして何考えてんだよ?……ほんと、オマエって面白いよな」

「うっ、うっせぇ!!」


ったく、なに考えてんだよ。

イキナリ変な事を言って、プレッシャー掛けてんじゃねぇぞ。


良いか、馬鹿秀。

俺は、オマエみたいな女誑しじゃなくて、硬派なんだよ硬派。

喧嘩とか、そう言うのだったら、オマエにも引けをとらないし、なんも緊張なんかしネェけどな。


女関係になったら話は別だ。

俺は、普通に女と話すだけでも緊張するんだよ、ボケ。


それ以上なんか期待されても、なんも出来ねぇわ!!



「まっ、良いや。この分じゃあ、この後、お前がどうなるのか楽しみだな、クククッ」

「オマエって、本当、信じられねぇくらい性格悪いな」

「よくご存知で」


崇秀は悪戯な笑顔をする。


あぁ多分、女がコイツに嵌る理由はこれだな。

こうやって、悪戯な笑顔を振りまいて女の警戒心を解いていくんだな。


大したもんだよ。


つぅかオマエさぁ。

うちの組事務所が経営してるホストの仕事紹介してやるから、直ぐに行けよ。


テメェにゃあ、お似合いの糞仕事だ。



「まぁよ。御託は良いから、そろそろ行こうぜ。多分、このまま行っても、時間がギリギリになりそうだしな」


奴の言葉と共に、俺達は駅前に向かって歩き出した。


この後、どうなる事やら……


不安だ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

読んで頂きまして、ありがとうございました<(_ _)>

これにて、第一話を終了いたしました。


如何だったでしょうか?


さて、第一話を終えた所で、この倉津真琴についての設定を纏めておきますね。


1)【広域ヤクザ倉津組の組長の息子である】

2)【やくざの組長の息子なので、恐れられていて、学校では、崇秀以外ほぼ誰も話しかけてこない】

3)【当然、女子とも接点がないだけに、ある意味、女子に幻想を抱いている】

4)【学校の勉強は、一部の教科を除いて、ほぼ赤点(バカ)】

5)【そんな学校生活を送っているから、日々退屈を持て余しているので、ろくな事をしない(カツアゲ等々】

・・・・・・っと言う部分が基本になります。


それで、此処からは付け加えの説明に成るのですが。

6)【口悪く言ってるが、崇秀とは腐れ縁で仲が良く、絶大な信用を置いている】

7)【仲間を害する人間は、絶対に許さない】

8)【③で解る様に、女性に対しては、異常なまでにピュア(ヘタレ(笑))】

9)【実は隠れオタク(知られてないが、意外とこう言う不良は多い)】

10)【ヒーローが好き】

・・・・・・っと言う様な設定になります。


まぁ、これ等を見て頂いたら、大体想像は付くと思うのですが。

【ヤクザの組長の息子】と言うレッテルが、彼をこういう性格にした部分が多く見受けられる訳ですね。


これが私の一番言いたい部分でして『クズは生まれた時からクズではない』と言う所なんですよ。

生まれた環境なので、どうしてもそうなってしまう部分があるんですね。


だからと言って『他人に迷惑をかけて良い訳ではありません』

読んで頂いた方も、彼の身勝手な行為に不快を覚え、大半の方がそう思うと思います。


でも、だからこそ【この子の更生を見守ってあげて欲しい】

色々な人と出会い、様々な経験をして変わっていく、この子の人生を見て欲しい。

そう願いながら、この『クズだけを表現した第一話』を終わらせて頂きたいと思います。


第一話、読んで頂いて尚、少しでも興味が残っておりましたら、ぜひ続けて読んでみてください。

彼は必ず更生します。


長い後書きにまでお付き合いくださいまして、ありがとうございました<(_ _)>

またお会い出来る事を楽しみに待ってます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る