003 不良さん、カツアゲについて考察してみる

 そのろくでもない思考は突然に起こった。


・・・・・・あれ?


そう言えば『俺みたいな屑不良って、さっきみたいなカツアゲとかをよくするが、その金って、一体何に使ってんだ?』

カツアゲを終えてから町を歩いていると、不意に、そんなどうでも良い様な疑問が沸いてきた。


勿論、こんな愚問に対して解答が出ない訳がない。

カツアゲなんざ、さっきも自分で言った通り『遊び金』欲しさに、人様からカツアゲをしているに過ぎないんだからな。


遊びの幅を広げる意味で、金は最重要POINT。

金が無ければ、当然、遊びがショボくなる。

その快楽を得る為だけにカツアゲをする。


それが隠さざる真実であり……全ての答えの筈だ。


……かと言ってだ。

金が無いからと言って、全く遊べない訳じゃないんだよな。

寧ろ、金が無い時の方が、色々考えて遊ぶ分、変に面白い事を思いついたりもする。

結局、遊び金が必要なのは、誰かが作った遊びに便乗する為に、必要なだけに過ぎないって事だよな。


―――ふむ、って事はだ。

今、冷静に成って考えてみるとだな。

金が無くて遊ぶ方が面白い以上、カツアゲって、あんま意味無いな。


……オイオイ、久しぶりに良い鴨を拾って大金が入ったって言うのに、なんか急激に虚しくなってきたぞ。


これはダメだ。

この思考は破棄すべきだ。


―――じゃあ、考え方を改めて見るか。

どうすれば、カツアゲをする正当な理由になるのかを考えてみよう。


この意味さえ理解出来れば、最低限度では有るが、この虚しい気持ちは無くなるって事だからな。


いつの間にか俺は、ベンチに腰掛けて。

このおかしな疑問を、まるで何とかって奴が作った『考える人』の様なポーズをとりながら真剣に考え始めていた。


では、早速だが、まずは『貯金』なんて提案は、どうだろうか?

カツアゲした金を、余計な事には使わず『速攻で銀行に行き、全額貯金する』なんて言うのは、中々良いアイディアなんじゃねぇか?


だってよぉ、考えてもみ。

バブル崩壊後、不景気の真っ只中の世の中じゃあ、こんな効率の良い稼ぎは早々無い。


だったらこれは、ある意味、20歳になるまでの間に許された『未成年の特権』

カツアゲは、それを利用したマネー・ゲームとも考えられなくもないよな。


第一、未成年だったら、捕まっちまったとしても『青少年保護条例』っとか言う、子供には非常に都合の良い条例があるから、色々な意味で安心だしな。

この間抜けな条例のお陰で、未成年の犯罪では、マスコミに顔や名前は出ない。

それに、安い給料で、ちまちまアルバイトなんかするより、ずっと効率よく金が貯まる筈。


ハイリスク・ハイリターンではあるが、良い稼ぎ話である事には間違いないよな。


だったら、これ……結構、悪くなくね?

いや、寧ろ、クズな俺からしたら最高のアイディアかもしんねぇ。


しかしまぁ考えてみると、意外とカツアゲにも意味があるもんだな。

こんな風に多角的の物をみたら、色々な意味が見えてくるもんだ。


それによぉ……この簡潔な仮定をおいたシンプルな考え方、まるでポール・クルーグマンじゃねぇか?


すげぇぞ俺!!

いつの間にか俺は、自分を有名な経済学者に例えながら、無駄なぐらい上機嫌になっていた。


そこに……



「コラ~~~ァァ、倉津!!この昼日中に学校サボって、お前は、こんな所でなにやってるんだ!!サッサと学校に戻れ!!」


不意に背後から、そんな怒鳴り声が聞こえてきた。


ほんの一瞬だけ、学校の先公かと思って焦ったが、ビビるまでもなかった。

だって、奴等の大半はジジィばっかり。

故に、この声の主は、学校の先公とは違う。


……まずにして明らかに声が若過ぎるしな。


それにだ。

先公がジジィなだけに留まらず、ウチの生活指導の先公は、婚期を逃した糞ババァ。

どう転んでも、この声の主は、俺の通う学校の先公ではない。


なら、考えられる事は1つだ。



「ツマンネェ事してんじゃねぇぞ、馬鹿秀。……テメェの、そんなしょうもないネタじゃあ、餓鬼も騙せねぇ。バレバレなんだよ」

「ちっ、気付きやがったか。馬鹿のクセに勘だけは良いな、オマエ。野生の勘って奴か?この野生児」

「誰が野生児で馬鹿だ。天才の俺様を捕まえて馬鹿呼ばわりとは、どぅ言う神経回路してやがんだ、オマエは。病院行け病院」

「オマエさぁ、自分で天才とか言う奴は、相当な馬鹿って知ってるか?病院行くのはオマエの方だよ」

「テメッ!!人様の事を馬鹿馬鹿言ってんじゃねぇぞ。良いかボケ?俺様は、今な、画期的な金儲けの方法を思いついた天才なんだぞ」


やべっ。

今、自分で天才って言うのは馬鹿の証拠だって言われた所なのに、また懲りずに、自分で天才って言っちまったよ。


学習能力ねぇな俺。



「ほぉ、そいつはすげぇな、天才」

「テメッ」


コイツだけは、完全に俺を馬鹿にしてやがるな。

ホント、心の奥底からムカツク神経の持ち主だ。


小学生からの付き合いじゃなきゃ、絶対にボコボコに締めてるぞ。


あぁ因みにだがな。

この死ぬ程嫌みったらしく、死ぬ程嫌な奴は『仲居間崇秀』(ナカイマ・タカヒデ) 


俺と同い年で、13歳の中学2年生。

とんでもなく暴力的な性格の上に、知性の欠片もない馬鹿王子。

小学校の入学と同時に知り合った腐れ縁なんだが、その酷い暴力性は、その当時から見え隠れしていた。


なんて言ってもよぉ。

コイツとは、不幸にも入学時から同じクラスになってしまったんだがな。

偶々、席が隣になったもんだから、親切にも、俺から声を掛けてやったにも拘らず。

イキナリ『ブッ殺すぞ』とか言う言葉と共に、俺をブン殴ってきやがる様なイカレタ奴だからな。


大体、小学校の入学直後に、クラスメイトを殴る奴がいるか?

そんな奴、普通は居ねぇだろ?

だがコイツは、平然とそれをやってのける様な酷い人間性しか持ち合わせていない奴なんだ。


俺は、ただ『友達に成ってやるから、金に困ったら金貸してくれよな』って言っただけなのによぉ。


イキナリ、ぶん殴るこたぁねぇだろ。


まぁ兎に角だ。

そんな嫌な奴なのだけは明白だ。



「んで、その天才様は、一体、何を思いついたんだ?」

「ケッ!!誰が、オマエなんぞに教えるかよ。それにオマエみたいなボンクラ脳味噌じゃ、俺様の崇高な考えはわかんねぇよ」

「あっそ、じゃあ聞かねぇ。オマエの崇高な脳味噌で考えた方法とやらで、精々儲けてくれや……あぁでも1つ忠告しとくぞ」

「んだよ」

「下手ぶっこいて、ポリに捕まんなよ」

「テメッ!!」


これだよ。

これが、コイツの一番嫌いな所だ。

俺の行動や思考を、何でも見透かした様に物事を言ってきやがる。


まぁどうせ、全部が全部、当てずっぽうなんだろうが、なんか、この余裕の有る態度が異様にムカつくんだよな。



「んだ?どうかしたのか?」


それに、その嫌な笑顔。

なんなんだよ、その妙に勝ち誇った様な顔はよ?


無駄にニヤニヤしやがってよぉ。

そうやって、あんま人の事を見下してんじゃねぇぞ。



「テメェなぁ」

「どうした?今のうちに、年少への差し入れの催促か?なにが欲しい?」

「ったく。お前って、どこまで嫌な奴なんだよ」

「はぁ?何言ってやがんだよ。どうせオマエの考えるこった、ロクデモナイ事に決まってる。だから先に忠告してやっただけの事だよ……寧ろ、心配して貰えただけでも有り難く思え」

「んだよ。じゃあ、俺が何を考えてたか解るとでも言うのかよ?」

「アホか?んなもん手に取る様に解るに決まってんだろ」

「ほぉ、じゃあ、何を考えてたか、正確無比に言ってみろよ」


どうせまた、俺の行動原理がどうとか、こうとか、おかしな事を言うんだろ。


インテリぶってんじゃねぇぞ、このド不良くせによぉ。



「良いか、馬鹿津。どうせオマエは単純馬鹿だから『カツアゲした金』の運用法でも考えついたんだろ……違うか?」


ったく、なんなんだよ、コイツわ?

なんでそう、正確無比に正解を導き出せるんだよ。


お前は、超能力者かなんかか?



「なっ、なんで、そう断言出来るんだよ?」

「んなもん、アホでも解るわ。カツアゲした後にロダンだろ。オマエのこった、どうせクッソクダラネェ事を考えてるに決まってる」


和製クルーグマンと言われる俺を捕まえて、失礼な奴だな。

クッソまで付けて、クダラネェ、クダラネェ言ってじゃねぇぞ。


それによぉ。

そのロダンって、なんだよ?


意味わかんねぇし?


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

お付き合い、ありがとうございました<(_ _)>


それにしても、流石クズですね。

お馬鹿なだけに、ろくでもない事しか考えませんね(笑)

しかも話途中で、崇秀の放った【ロダン】って名前が気になって、既に思考が他所を向いてる始末。


まさにアホですね。


まぁこんなお馬鹿ちゃんですが、末永く見守ってやってください♪

(*'ω'*)b

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