序章・第一話 質の悪い不良
001 不良さん、マジで理不尽なカツアゲをする
『カンッ!!』
そんな偉そうにも、仰々しく講釈を垂れた割りに俺のした事と言えば。
近くに落ちている空き缶を発見し、八つ当たりにも似た心境で、おもむろに思い切り蹴飛ばしただけ。
『コンッ!!』
……っと言う、小気味の良い音と共に、空き缶は空中に放り出され。
綺麗な放物線を描きながら、なにやら厳つそうな高校生の背中に当る。
後は、地面にコロコロと音を立てて転がっていくのみなんだが、実はコレだけでも、意外と面白そうな事が起こるもんなんだよ。
「イッテェ……誰だよ?今、俺の背中に缶をぶつけやがったのは、何処の誰だよ!!」
ほらな。
案の定、こんな単純な行為だけでも、馬鹿がキッチリ反応しやがっただろ。
しかも、そのアホは、どこを見てやがるのかは知らないが、お門違いな方向をキョロキョロとしながら必死に犯人を捜し回ってやがる。
……アホが。
その間抜けな姿に、俺は満面の不敵な笑みを浮かべた。
思わぬ所にチャンスが転がっていたからだ。
まぁ、俺が『チャンス』と言ったのは他でもないなんだがな。
このお間抜け野郎が着てる学生服に見覚えがあるからだ。
やけに厳つい顔をしているから見逃しかけていたが、コイツが着ている制服は、県内でも有名な金持ちのボンボン高校の制服。
そんな美味しそうな鴨を、ムザムザ見過ごす手はないだろ。
俺にとっては、まさに格好の鴨なのだから。
この状況、ハッキリ言って、鴨が葱背負って歩いてやがるのも同然。
―――俺がじっくり煮込んで、鍋にしてやらないと可哀想ってもんだ。
勿論、こんな状況下で、俺みたいな屑のやる事は1つ。
……不良恒例の大カツアゲ大会だ。
「にぃちゃん、にぃちゃん、どこを探してやがる。その空き缶を蹴ったのは俺だよ俺」
「あぁ?」
俺の親切な声に反応して、厳つそうなボンボン学生が、コチラの方に振向きそうだったので。
その瞬間、身を低くして思い切りダッシュ。
後は、問答する間もなく、顔面にヤクザキックをお見舞いしてやる事にした。
(プロレスラー蝶野選手の必殺技!!現在、ヤクザキックから、喧嘩キックに改名でされています)
喧嘩やカツアゲちゅうもんは、基本的に先手必勝だからな。
「お~~~~りゃっよっと」
「グハッ!!」
ケリは、問答無用で奴の顔面にモロに命中した。
自慢じゃないが、俺のヤクザキックは途轍もなく勢いがある。
威力に耐え切れなかったボンボン高校生は、面白い様に吹っ飛ぶ程にはな。
その様は、まるで漫画の中の雑魚が吹き飛びみたいな飛び方だ。
……にしてもなんだな。
どうにも鴨共は、危機感ってもんが欠如してやがるのかねぇ?
普通なら、こんな大技を、一発目から喰らう筈がねぇんだがな。
この様子からしても、日本と言う治安国家の元、警戒心ってもんが薄れて居るのが眼に見えて解る。
そりゃあ確かにな。
今、俺の蹴りをモロに喰らったこの馬鹿が思ってる様に、日本の警察は優秀だ。
街中でクダラナイ諍いがあれば、直ぐに駆け付けてはくれる。
だから、この程度の小さな諍いレベルを治めるだけなら、この国は治安国家の名に相応しい。
但しだ。
此処を大きく勘違いしてる奴が多いみたいなんだけどな。
幾ら日本の治安が良く、警察の対応が早いとは言え。
奴等に連絡が行き、現場に駆けつけるまでの時間ってもんを、全くと言って良い程、考慮してないんだよな。
要するにだ。
諍いを起こした後、ポリが来るまでに事を済まして逃走しちまえば、治安の良さなんざ、なにも関係ネェつぅ話だ。
加害者である俺がが、その場に居なくなっちまえば。
カツアゲ程度じゃ、現行犯逮捕でも無い限り、警察も深くは追求して来ないからな。
なので例え、治安が良かろうが、最低限度の自己防衛は己自身でするもんだ。
故に、コイツは、本物の鴨。
実に、平和ボケした無防備な野郎だ。
その証拠に、未だケリを入れられた間抜け野郎は、何が起こったかも解らず。
顔面を手で押さえたままフラフラとしながら、必死に起き上がろうとしている。
……だがな、それは悪いが、出来無い相談だ。
なにがどうあっても、此処で起き上がらせるなんて真似はさせねぇよ。
迅速に、相手の戦意を喪失させる事……これもカツアゲの基本中の基本だからな。
故に直ぐ様、俺は脚をキャプツバの日向小次郎の如く高く上がる。
容赦の無いサッカーボールキックが、起き上がろうとしている奴の顔面を捉える。
「せぇ~~~の、雷獣しょっと!!」
「ぐばっ!!」
キックは、再び顔面の鼻先に命中。
その衝撃のせいで、更に、意味が解らなくなったそいつは、路上に転がりながら混乱を極めている様だ。
それにしても、なんなんだ、この面白い生き物わ?
現在進行形で襲われているにも拘らず、この体たらくな様相は、どうなんだろうな?
テメェの身に起こってる状況の把握も出来ねぇのかよ?
……情けねぇ野郎だな。
それともなにか?
俺の蹴りを、もっと欲しいから、そうしてダメージを負ってるフリでもしてやがるのか?
もしそうなら、飛んだM野郎だな(笑)
しょうがねぇ奴だなぁ。
じゃあ、ご要望通り、蹴をくれてやるよ。
そう考えた瞬間には、もぅ一発蹴りをブチかまし。
その反動で、靴先にグシャッと言う感覚と、骨のめり込んだ良い音が響く。
コイツは、いつ聞いても、実に、ご機嫌で、小気味の良い音だ。
奴の鼻からは止めどなく、大量の鼻血が流れ始めてるみたいだしな。
―――こりゃあ、鼻骨が逝ったな。
お可哀想に。
「オイオイ、にぃちゃん、豪く派手にぶっ飛んだな、怪我ねぇか?大丈夫か?」
「へっ?……あぁ、あぁ、すまんな」
鼻血が出ている鼻と、朦朧とする頭を押さえながら。
この馬鹿は、誰か助けに来たとでも思ったのか。
突然の俺の親切な言葉には、微妙に反応してきやがったみたいだな。
どうやら、この様子からして、言葉を失うほどの衝撃ではなかったらしい。
そりゃあ良いこった。
「口がきけんなら、まだ大丈夫そうだな。じゃあよぉ、出逢って間無しで悪ぃんだけどよぉ。オマエ、俺に金貸してくんねぇか?」
「へっ?」
「だからよぉ。俺さぁ、バブルが弾けて貧乏なんだわ。小遣いもありゃしネェの。だからテメェに、金を貸してくれって言ってんの」
「はっ、はぁ?へっ?オマエ、助けてく……」
この鼻血太郎は現状を飲み込めずに、頭の上に『?』が大量に飛んでやがる。
こんな状況になってまで、こんなボケた回答が出来るなんざ、大したお笑いのセンスだ。
けど、全然面白くはねぇな。
もっと危機感を持って、カツアゲされてる立場ってもんを理解して貰わないと困る。
「わかんねぇかなぁ。俺にゃあ遊び金がねぇんだよ。だから金貸してくれ、って言ってんの」
「ちょ、ちょっと待って。なっ、なんで俺が、見ず知らずのお前に金を貸さなきゃいけないんだ??」
まぁ、確かに言い分としては、正当な言い分だな。
誰だって、知らねぇ奴に金なんざは貸したくはねぇし、貸す義理なんて物はない。
だから、言いたい事は解る。
けど、そんなもんは、ただの一般論。
カツアゲされてる時に、わざわざ口に出して言うセリフじゃねぇよな。
「あぁ?訳わかんねぇ事を、わざわざきいてんじゃねぇぞ。テメェが金持ってそうだから、俺に金を貸してくれって言ってるんだよ。んな事もわかんねぇのかよ?」
「なっ!!」
「あのよぉ、金を持ってそうな奴がいたら、狙ってカツアゲする。そいつは、この街じゃあ基本的なルールみたいなもんだろうがよぉ。まさかお前、そんな事もシラネェで、この辺をブラついてたのか?正気の沙汰じゃねぇな」
「そっ、そんな理不尽な」
半分ビビリながらも、口だけは、必死に反論を試みてきたみてぇだな。
だがな。
俺みたいなロクデモナイ不良にゃあ、そんな口上じゃあ何の役にも立たネェよ。
けどまぁ、確かにコイツの言う通り、理不尽な話だ。
それに、こんな自分勝手で粗野なルールが、この街に存在する筈はねぇ。
当然、この非常識極まりないルールは、俺が今、何気に考えただけのものに過ぎない。
早い話、何の根拠も無なければ、勿論なんの意味も無い言い分。
明らかに、これは、ただの言いがかりでしかないのだろう。
若しくは、カツアゲの切欠を勝手に作ったに相違ない。
まぁどちらにしても、別に、そんな事はどうだって良い。
暇で機嫌の悪い俺の前に、カツアゲの切欠を与えたコイツが不運だったってだけの話だ。
そう言う訳でだ。
『オマエは襲われてるんだぞ』
わかったかボケ?
金ばっかり使う事を考えてねぇで、少しは脳味噌使え。
テメェの頭は飾りか?
「理不尽も、不条理もあるかつぅ~の。テメェは四の五の言わず、俺の言われた通りにすりゃ良いんだよ。それで、世は全て事も無きだ」
「なっ、なんで俺が」
そんなもんは知らん。
いや寧ろ、知ったこっちゃねぇ。
ただ単にテメェの運が悪いだけなんじゃねぇの。
「あぁ?いつまでもゴチャゴチャ言ってねぇで、サッサと金を出せよ。テメェの脳天かち割って、脳味噌引きづり出す準備は出来てんぞ」
もぉこれ以上、このアホと無駄な問答する気は更々無い。
故に、俺は、口を動かしながら手も動かす事にした。
俺の口と手は、なんて働きもんなんだ。
自分でも感心するぐらい良く働く。
んな訳で、取り敢えず殴る。
殴ってみたものの。
ボンボンは口をパクパクさせて、まだ反論しそうな雰囲気だったので、拳を振り上げて、もう一発殴る。
「なぁなぁ、早く金くれよ。このままじゃあ、俺は拳がイテェだけだし、テメェはボコボコに成る一方。お互い、何のメリットもねぇ事くれぇ事ぐらいわかんべや?」
手を相手の眼前にプラプラさせながら、金を出す事を要求。
この時点で既に『金を貸して』と言う言葉ではなく『金をくれ』になっている自分に、一瞬噴出しそうになった。
でも、良く考えてくれな。
基本的にこれは、人道外れた行為。
人から金を奪うカツアゲ。
借りた所で、100%返済する気持ちなんてものは微塵も存在しねぇ。
だったら、もぉこの際だな。
この俺の言ったセリフも、一言一句間違って無いセリフになる筈じゃねぇか?
寧ろ此処でハッキリと『くれ』って言われた方が、相手も返って来る見込みがない事が解る分、奪われた金も諦め易い。
所謂、お互いが気持ちが良い取引が出来る、っと言う訳だ。
そんな容赦の無い俺を見て、気持ち的に諦めたのか。
ボンボンは、ズボンのポケットからゴソゴソと財布を取り出す。
―――オイオイ、コイツ、どこまで能天気なんだよ?
流石の俺も、この行動には焦った。
カツアゲしてる奴の目の前に、財布を出すなんざ恐れを知らない行為は『財布ごと持って行って下さい』って言ってるのと、なんらかわんねぇぞ。
心の中では、そんな親切な事をのたまわりながらも、相手の手から財布を奪い取る。
「ちょ……」
「んだよ。財布を出すって事は、財布ごと全部くれんだべ?」
「ちっ、違……」
「良いね、良いね。羨ましいねぇ。金持ちのボンボンは気持ち的にも、財力的にも余裕が有ってよござんすね。まさか財布ごとくれるなんて、なんとも気前が良い話じゃねぇか」
「いや……」
「いや?いやだと?……うん?今、なんか、おかしな言葉が聞こえた様な気がするんだが……イヤって、なんなんだろうなぁ?まさかとは思うが、一度、人にやったものを、今更返して欲しいとか言う、返却を求める声じゃねぇよな」
「いや……あの」
「ねぇよな?」
「あぁ……はい」
完全に心が折れたみてぇだな。
いい年こいた高校生が半泣きに成ってやがるじゃねぇか。
顔が厳ついくせに情けねぇ野郎だな。
しかも『くれる』って方向で、同意してくれちゃったよ、この人。
このご時勢に、すげぇな金持ちって。
……ドンだけ余裕あんだよ。
「あっそ、んじゃあ、もぅ用は無いから消えろや……それとも貧乏で、哀れな俺に、まだ何かくれんのか?イエス・キリストでもパンしか恵んでくれない時勢だぞ……オマエ、神の化身かなにかか?」
「もっ、もぅ何も無いです」
「あぁっそ。じゃあサッサと消えろや。金もない貧乏人に用はねぇ」
自分で言っておいて酷い話だとは、最低限度思っちゃあいるんだぞ。
……が、実際は、そうじゃない部分が大半だ。
だって、この状況ってよぉ。
誰がどう見たって、腹を空かせた獣の前を、丸々太った羊が通ったのと同じじゃんかよ。
羊は襲われて、当然の結果。
喰い散らかされるのが運命ってもんだろうに。
だから、これはもぉ『大自然の摂理』と言って、なんら間違ってはいない。
もしこんな被害に遭いたくないなら、草食動物のシマウマみたいに、ちゃんと危険を感知して、俺の前を通らなければ済む問題だ。
要するに、少しは危機感持てって話だな。
んで、喰った後の骨には興味が無い。
……これも当然の事だよな。
まぁ、それにしてもコイツ、エライ金持ちだな。
プラダの財布の中身を確認して、少し驚いた。
キャッシュで13万に、クレジットカードが数枚。
すげェな、ボンボン。
また良かったら、いつでも俺の前を通ってくれ。
いつでも喰い散らかしてやる準備を整えて待っててやるからよ。
金のある時は、遠慮せずに俺の前だけを通るんだぞ。
いいな。
「じゃ……じゃあ、俺はこれで」
金の確認してる俺を尻目に。
そう言ってボンボンは、学生鞄を持ち。
何かを持ち上げ、急いで、この場を去ろうとする。
俺は、その行動に、再び心底ニヤついた。
なんだよ。
なんだよ。
もぉ終わりかと思ったら、まだ良いもん持ってんじゃねぇかよぉ。
どうやら、さっきのは俺の思い過ごしなだけで、奴の肉は喰い尽されてはいなかった様だ。
なら、お残しは良くねぇよな。
クズである俺は、再び、ロクデモナイ事を思い付いた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【後書き】
お読みいただきまして、ありがとうございました<(_ _)>
しかしまぁ、自分で書いてて言うのもなんですが……ほんとクズですよね。
自分勝手な言い分や、理不尽な理屈ばっかり吐いてますもんね。
ほんと、困ったもんです(笑)
ですが、そんな彼ですが、本当に更生していきますので、此処で見捨てないでね
( ;∀;)b
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