第7話


「あなたは今までたくさんのTiMeを望むものへと変えてきました。あなたのまわりにはそれがつみあがっています。増えすぎているといってもいい。あなたはそれで苦しくなっているんです。


TiMeを共有するというのは、あなたのTiMeそのものを共有することだけではありません。


気持ちを共有すること、

知識を共有すること、

体験を共有すること、

またはTiMeを使ってつくられた

様々な物を共有することもその中に入ります。


どうして人は歴史を作りたがるのかわかりますか。

なぜあなたの周りにはこんなにさまざまな本や物があふれていると思いますか。

一部の人はTiMeを直接共有するよりも、

保存することで共有したいと思うからです。

そのほうがより広く、より長く共有できるからです」


若者はまだわからないという風に天使を見ていました。


「たとえば、あなたが読んでいるその本は、昔生きた人がTiMeを知識にかえたものです。TiMeは形を変えて保存されていきます。

本だったり、音楽だったり、建物だったり、

整備された山や川や畑だったり…

あなたのまわりにあるものは、すべてTiMeが形をかえて保存されたものです。

あなたのTiMeをついやしたもののうち、いくつかは他の人にとっても価値があって、もしかしたら誰かの役にたつかもしれません。

だから、あなたが形にしたいくつかを誰かと分かちあうというのはどうでしょう?」


若者はだまって、自分の周りを見ていました。


「あなたがいっている事はわかりました…。でも教えてください。私がそれを知らない誰かに分け与えたとして、自分に何の得があるんですか?」


「あなたの心のさびしさが消えます」


それで若者ははっと理解したようでした。


若者は死んでしまった友達とはもう二度と同じ時間をすごすことはできません。

若者は今、一人で生きています。

でも一人で生きるには、神様がお与えになったTiMeは多すぎるのです。

昔は友達とそれをわかちあっていましたが、

今では若者以外の誰とも共有されずに、ただただつみあがっていきます。



TiMeが一日ごとにすべて消えていくのは、それが一番しあわせなことだからです。

永遠につづく幸せは、もはや幸せではありません。

毎日が苦痛の連続だったら、それは日常になってしまいます。

いろいろなことが起こるから、そのすべてを新しい気持ちで楽しむことができます。

だから毎日をあらたな気持ちで生きられるように、

神様はTiMeを毎日新たにつくりだしてくださいます。


けれどTIMEが形を変えて保存されたとき、そこには思い出も生まれます。

思い出は共有できる相手がいれば幸せを増やしてくれますが、

若者のように一人で抱えるには重すぎる宝物です。


だから若者はTiMeをたくさん使っていろんなものを作り、

作ったものにかこまれながら、どこか満たされないものを感じていたのです。


若者は、天使が言う通り、今まで作ってきたものを他の誰かとわかちあおうと思いました。

「わかりました。あなたが言う通りそれをやってみようと思います」


天使はしずかにうなずきました。

「きっとあなたのTIMEは形をかえてあなたにもどってきますよ」


そして、天使はそこをはなれました。



つづく。

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TiMe すべてに変わることができる富 sousei @souseiworks

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