第50話 1.4.13 藍那との交際③

 私、佐倉藍那は光覇兄との思い出を振り返っていた。


 あれは二股の許可を取ったときの話だ。


 時間も時間なので光覇兄が家まで送り届けてくれることになった。


 話してて分かったのだが私たちは同じ横浜海洋大学の大学生だった。


「ええええ!? 光覇兄、横浜海洋大学だったの!? ……でも昨年1年間、光覇兄のこと見てないんだけど」


 そう私は昨年1年間、横浜海洋大学で普通に大学生してたが光覇兄のこの字も見かけなかった。


 光覇兄センサーが私にはあるんだがそれにも全く反応してなかった。


「ああ、昨年は1年間休学してたから」


「ふーん、そうなんだ」


 光覇兄は昨年1年間休学してたらしい。


 理由が何なのか多少気になったが光覇兄にも事情があるのだろうと思って聞かないことにした。


 最寄り駅から徒歩20分。


「着いたよ、光覇兄」


「ってここ俺の住んでるマンションじゃん!!」


「そうなの、光覇兄?」


 私は内心、光覇兄と同じマンションだということに嬉しくなっていた。


 もしかしたらゴミ出しとかですれ違っていたかもしれないってこと?


 正に灯台下暗しというやつだろう。


「まさかお隣さんじゃないよな……」


「あはは、そんな奇跡起こるはずが……」


 私は光覇兄を私の部屋207号室に紹介する。


「ここだよ、光覇兄」


「ええええ!? マジでお隣じゃん!!」


「運命……これはきっと運命の赤い糸が私たちを引き合わせたんだよ!!」


 私は光覇兄と隣の部屋だったそのことに運命を感じていた。


「光覇兄、昨年もここのマンションに住んでたの?」


「いや、昨年は実家のある東京に戻っていた」


 なるほど。そういうことか。だから私の光覇兄センサーが反応しなかったんだね。


「ちょうどいい。俺の彼女に藍那のこと紹介して二股の許可をとろう」


「うん。分かった」


 なんで光覇兄の彼女さんが光覇兄の部屋にいるのか分からなかった。


 もしかして同棲!? 同棲なの!?


「ただいまー」


 美少女が光覇兄にダッシュで抱きついてきた。


 目がくりっとしていて子犬のように元気な美少女だった。


 どことなく瑠夏ちゃんの面影があった。


「おかえり、コウ君!! 帰り遅いから心配してたんだよー。……この女の子は誰?」


「佐倉藍那。ほら幼稚園のとき一緒だったろ」


「あ、ああ、藍那ちゃんか!! 久しぶりー!!」


「光覇兄、この美少女は誰ですか?」


「こっちは水篠瑠夏。俺の彼女だ」


「えへへ、今はコウ君の彼女なんだ」


「ええええ!? 瑠夏ちゃん!? ……ちょっと待って。瑠夏ちゃんが彼女!? 彼女って2人は恋人なの?」


「ああ、そうだぞ」


 この美少女が瑠夏ちゃんだということが分かってやっぱりと思った。


 瑠夏ちゃんが彼女だということ納得している自分がいた。


 そうだよね。幼稚園児のときでさえ将来結婚するって言ってたもんね。


 告白くらいしてるよね。


 それで光覇兄はその告白をOKしたんだ。


 ライバルと認めていた瑠夏ちゃんに先を越されたことは悔しいのだがそれ以上に光覇兄の彼女が瑠夏ちゃんだということに祝福している自分がいた。


 2人は赤ちゃんの頃から隣だという正真正銘の幼なじみだもんね。


 自分でもお似合いのカップルだと思う。おめでとう、瑠夏ちゃん。


「そうだよ。……で何で2人で帰ってきたのかな?」


「俺たち付き合いたいって思ってるんだ」


「は?」


 光覇兄がストレートに私と付き合いたいって言ってくれた。


 このお似合いのカップルを邪魔するのは気が引ける。


 でも私も光覇兄のこと好きだもん。


 好きって気持ちは制御できないからしょうがないじゃん。


「だから付き合いたいって思ってるんだ」


「え……嘘……私、振られたの?」


 瑠夏ちゃんは目を大きく見開いていた。


「違う違う。俺は二股させてほしい、そう言ってるんだ」


「はあああ!?」


「兄貴たち、何騒がしくしてるのー?」


 ショートカットの美少女だった。


「うえーん、凪波ちゃーん。」


 凪波ちゃん!?


 あの小さかった女の子がこんなに立派に育ったのか……。


 改めて時の流れは残酷だと思った。


 光覇兄と十数年間連絡を取れなかったことが悔やまれる。


「ど、どうしたの瑠夏さん?」


「コウ君が……コウ君がひどいよー」


「よしよし、兄貴と何があったんですか?」


「コウ君が藍那ちゃんと付き合いたいって二股させてほしいって言うんだよー。浮気だよ浮気!!」


 たしかに浮気と言われたらこれは浮気かもしれない。


 私は瑠夏ちゃんの次、2番目の彼女でいい。


 だから私たちの関係を認めて。


「えっマジですか。玄関じゃご近所迷惑だから3人ともリビングに入って兄貴には詳しい話してもらいますよ」


 こうして私たちはリビングに入った。


「ご主人様、おかえりなさい」


「ああ、ただいま、一姫」


 また美少女が出てきた。


 一体何人美少女が住んでるの!?


 光覇兄はハーレムでも作っているのだろうか、本気でそう思った。


「で、兄貴、何があったのか教えてくれますか?」


「ああ、実は……」


 光覇兄が私たちの事情を話してくれた。


「兄貴……兄貴は馬鹿ですか。瑠夏さんというかわいい彼女がいながら他の女の子に浮気するなんて」


「それは……すまないと思ってる。……でも一目惚れだったんだ。許してくれ」


「兄貴が瑠夏さん一筋で相思相愛だからこっちも身を引いたってのに。藍那さんも二股とかOKなんですか?」


「私は二股を断ったら別れるだけだからOKだよ。瑠夏ちゃん、お願い、私たちの交際を許して」


 少しでいい。少しでいいんだ。


 光覇兄の大きな愛を少しだけ分けてほしい。


 瑠夏ちゃん、どうか、お願い……。


「瑠夏、この通りだ。俺からも頼む」


 光覇兄が瑠夏ちゃんに土下座した。


 それだけ私との関係を本気で考えてくれてるんだね、嬉しいよ。


「ヒック……ヒック……頭を上げてコウ君……分かった、分かったから。……コウ君が少しでも私のことを見てくれるなら二股しても良いよ」


「兄貴、聞きましたか?こんな健気でかわいい彼女を悲しませるような真似をしたら私が許しませんからね」


「ああ、俺は瑠夏と藍那両方責任を持って幸せにするつもりだ」


 責任を持って幸せにする、そう光覇兄は言い切った。


 その言葉が私を嬉しくさせる。


 ああ、やっぱり光覇兄は優しいな。


 改めて光覇兄のことが好きだ、そう思った。


「で、でも1番目の彼女は私だからね。……本当は順番とかじゃなく私だけを見ていてほしかったけど」


「ああ、1番目の彼女が瑠夏、2番目の彼女が藍那それを念頭に置いておくよ」


 こうして私は光覇兄の2番目の彼女になるのだった。


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