第49話 1.4.12 藍那との交際②
私、佐倉藍那は光覇兄との思い出を振り返っていた。
あれは引っ越して光覇兄と別れたときの話だ。
ある日の夕食。
その日はいつも仕事で忙しく帰りの遅いお父さんがいた。
お父さんとお母さんは沈痛な面持をしており重苦しい空気が漂っていた。
「あー藍那、夕食の前に話がある。」
お父さんが口を開いた。
「実は父さんの会社倒産したんだ……。地元の福岡に戻って新しい仕事を探そうと思うんだ。だから転園する必要があるんだ。」
ええええ!?倒産!?福岡!?転園!?
情報量の多さに私の脳の処理は追いついてなかった。
「2年前に転園したばかりで藍那には本当に申し訳ないと思ってる。」
「お母さんと藍那で2人だけで東京に残ることも考えたんだけど……。お父さんの仕事がなくなって今の家賃が払えないの……。だから藍那も福岡のおじいちゃんの家に来てほしいの。」
「うん、分かった。私はお父さんとお母さんについていくよ。」
私は普段から両親の前では聞き分けのいい子を演じていた。
だから今回も両親の言うことを聞くことにした。
「本当か!?父さんも早く仕事見つけられるよう頑張るよ。」
「お母さんも専業主婦だったけど仕事探して藍那の大学までの学費稼ぐからね。」
そこで私は気づいた。私が福岡に行くということは光覇兄と別れなければならないことを。
光覇兄は来年から小学生なので会う機会が少なくなることは覚悟していた。
だが私が福岡に行くことになると光覇兄ともう二度と会えなくなるんじゃないかっていうことが分かった。
それは嫌だと思った。
でも両親に今さらワガママを言う勇気も覚悟も持っていなかった。
お金という幼稚園児である私にとってはどうしようもない問題にこの現状を受け入れなければならないことを悟った。
それから私は幼稚園にいるときいつも光覇兄と別れなければならないことを考えていた。
光覇兄と別れなければならないことが頭をグルグルしていた。
「藍那、最近元気無いな。大丈夫か?」
私のほんのささやかな変化を見抜くなんて光覇兄はやっぱり優しかった。
「実は……。」
お父さんの会社が倒産したこと、今の家賃が払えなくなって実家のある福岡に戻ることになったこと、それで福岡の幼稚園に転園しなければならなくなったことを話した。
「マジか……。ツラかっただろ。泣いていいんだぞ。」
光覇兄は私を抱きしめてくれた。
「うっ……ぐすっ……私は光覇兄と別れなければいけないなんて嫌だよう。でもお金なんて幼稚園児の私にとってはどうしようもないじゃん!!」
「そうだな。お金はどうしようもないな。」
「やっぱり私、光覇兄のこと好き。もっと一緒にいたかった……。」
「嬉しいよ、藍那。……約束しよう。」
「え?」
「将来、大人になったらまた藍那に会うことを。」
そう言って光覇兄は小指を差し出してきた。
私も小指を差し出す。
「「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ます、ゆーび切った!!」」
そんなことを思い出しながら私は電車から外の風景を眺めていた。
光覇兄、もう私18歳、大人になったよ。
光覇兄は今、何してるかな?また会いたいよ。
いつの間にか最寄り駅に停車し私は慌てて降りた。
そのときだった。
「あの……ICカード落としましたよ。」
「ありがとうございます。」
顔の整ったイケメンだった。
私はドキッとした。
いけない私には光覇兄という心に決めた人がいるのに。
でもこの子はどこか光覇兄と似た面影があるんだよね。
「その缶バッジ、キミキセのファンなんですか!?」
その子は私のバッグについている綺羅崎日菜ちゃんの缶バッジを指さして聞いてきた。
私は同志を見つけて嬉しくなった。
「……はい、キミキセのファンです。」
「おー、俺の推しは詩音ちゃんです。推しはやっぱり日菜ちゃんですか?」
「はい、はい、そうです。詩音ちゃんとはなかなか分かってますね。」
それから私たちはキミキセについて語り合った。
1期のエンディングは感動したとか2期の7話は神回だったとか話した。
時刻は午後8時。
まだまだ話したりなかったがお腹も空いてきたのでマックに行くことにした。
「自己紹介がまだでしたね。俺は宮内光覇です。」
え……?え……?光覇兄!?
「ええええ!?光覇兄!?本当に光覇兄なの!?」
「光覇兄ってもしかして藍那!?藍那なのか!?」
「そうだよ。私は佐倉藍那だよ。」
「マジか……。」
これは奇跡だ。奇跡に違いない。
光覇兄と大人になったら再会できた。
これは神様のくれたプレゼントだと思った。
「ちょっと大事な話があるんだけど……。」
私は決めた。光覇兄に告白することを。
「大事な話?」
「好きです。付き合ってください!!」
私は十数年分の想いで告白した。
「ずっとずっと光覇兄のこと好きだった。離れている間もずっと。私の初恋は光覇兄、あなただったんだよ。時間が経てば私の気持ちが小さくなるかと思ってた。でも違った。逆だった。逆に光覇兄に対する私の気持ちは大きくなってた。だから好きです。付き合ってください。」
私は光覇兄に対する気持ちを正直に告白した。
私は緊張で心臓がバックバックだったけど言い切った。
言い切ることができた。
「……嬉しい、嬉しいよ、藍那。……ただ俺には彼女がいるんだ。」
彼女。
その言葉に私は頭が真っ白になった。
「え……嘘……彼女?」
「俺には彼女がいる。彼女がいる、それは事実だ。俺は彼女のことを一生大切にしたい。それは本心だ。……ただ藍那、君に一目惚れしたのも事実なんだ。君のことも一生大切にしたい、今はそう思ってる。……だから最悪の提案だけど二股していいか彼女に頼んでもいいか!?」
光覇兄が私に一目惚れしてくれた。
それが何よりも嬉しかった。
彼女がいる光覇兄には二股という形でしか彼氏彼女という関係になれないだろう。
それなら二股くらい許してもいいかな、そう思った。
「……え?……ええ?……うん、いいよ。」
「本当か!?ありがとう!!」
こうして私たちは光覇兄の彼女に二股の許可を取りにいくのだった。
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