1.4.11 藍那との交際①

 私、佐倉藍那は光覇兄との思い出を振り返っていた。


 あれは初めて会って一目惚れしたときの話だ。


 私は初恋というものをしたことがある。


 幼稚園時代の話だ。


 宮内光覇。


 それが初恋の相手の名前だった。


「ふええーん。おかあさーん」


 ある日、私は泣いていた。


 その日はクリスマスで家族で街のイルミネーションを見物しにやって来ていた。


 だが私は今、一人ぼっちでクリスマスツリーの前で泣いていた。


 おまけに今、私がどこにいるのかも分からなかった。


 それもこれも私のせいだ。


 私が街のイルミネーションの綺麗さに目を奪われ、1人走り出してしまったからだ。


 クリスマスの街は人がたくさんで私は容易にお母さんとはぐれてしまった。


「お前、何泣いてるの?」


「ふええ?」


 それが光覇兄だった。


 カッコいい男の子だと思った。


 冗談のような話だが私は一瞬で好きになった。


 顔は赤らめてしまうし心臓はバックバックだった。


 今から思うと私の初恋で一目惚れだったと思う。


「お母さんとはぐれちゃって……」


「ああ、迷子か。俺も一緒に親探すの手伝ってやるよ。……ほら、行くぞ」


 そう言ってその男の子は私の手を引いてくれた。


 その子の手は温かく私の心まで温かくなった。


 優しいなと思った。


 私はますますその子のことが好きになった。


 私とその子はお母さんを探し出す間いろいろな話をした。


 その子との雑談はとても楽しく時間が一瞬で過ぎた。


「俺はななくさ幼稚園の年中だけどお前は?」


「わ、私もななくさ幼稚園の年少だよ」


「へー、同じ幼稚園なのか……。ならまた会えるかもな」


「でも私転園したばかりで友達がいなくて一人ぼっちなんだ……」


 なぜ自分がその言葉を言ったのか自分でもよく分からなかった。


 この子といろいろな話をして信頼度が上昇してこの子になら私の悩みを打ち明けてもいいかなって思ったんだ。


「そうなのか、大変だな。……なら俺が友達になるよ」


 そう言って彼は私の目をまっすぐ見てきた。


 その真剣な表情に私はドキッとした。


「え?」


「だから俺が友達になるよ。そうしたら寂しさも半分こにできるだろ」


「あ、ありがとう」


 私はこの子の優しさが身に染みた。


 初対面の私の一人ぼっちだという悩みに対して親身になってくれて自分が友達になってくれるという理想的な答えをしてくれたのだ。


 この子と友達になれるなら二人ぼっちになれるなら寂しさも気にしなくていいような感じがした。


「友達になるついでにあなたの名前を教えてよ」


「ああ、自己紹介がまだだったな。俺は宮内光覇。お前は?」


「私は佐倉藍那。……あと1コ年上だからあなたのこと光覇兄って呼ぶからあなたも私のことお前じゃなくて藍那って呼んでくれたら嬉しいかな」


「ああ、分かった。明日からよろしくな、藍那」


「うんっ、よろしく光覇兄」


 しばらくして私たちはお母さんを見つけて別れた。


 次の日。


 この日、私はワクワクしながら幼稚園に通園した。


 今日は友達になった光覇兄と遊ぶのだ。


 私は光覇兄のいる年中さんのクラスに向かった。


 キョロキョロ探したら光覇兄の背中を見つけた。


「あ……! おーい、光覇に……い……?」


「コウ君、今日は私とおままごとしましょうね。私がお嫁さんでコウ君がご主人様!!」


 なんと光覇兄はとある可愛い女の子と話していたのだ。


 名札の色から光覇兄と同じ年中さんだということが分かった。


 光覇兄のことをコウ君と呼んでいることから分かるように2人の親密度はとても高かった。


 私は内心、なんだ……光覇兄友達いるんじゃん……2人ぼっちだと思って勝手に舞い上がった昨晩の私が何だか恥ずかしくなった。


 帰ろう、ここは私のいるべき世界じゃない、そう思ったときだった。


「藍那じゃん。そんな暗い顔してどうした?」


 顔を上げるとそこには光覇兄がいた。


「こ、光覇兄……」


「コウ君、この可愛い女の子は誰?」


 光覇兄の友達がそう聞いてきた。


「この子は藍那。昨日から俺の友達になったんだ。藍那、こいつは俺の幼なじみの瑠夏だ」


「はじめまして、藍那ちゃん。私はコウ君の幼なじみ、コウ君とは赤ちゃんの頃からずっと隣にいた仲だよ」


「はじめまして瑠夏さん。私は昨日、迷子になっていたところを光覇兄に助けてもらった仲です」


 私と瑠夏さんでは光覇兄と一緒にいた年月では負けるかもしれない。


 でも濃度という面ではどうだ。


 昨日の光覇兄との時間は私にとってかけがえのないものでそれは光覇兄も同じように思ってくれているだろう。


「ふーん。でもコウ君は私と将来結婚する約束してるからね」


「なっ……」


 2人は仲がいい、仲がいいと遠くから見ても分かったが結婚する約束までしているとは……。


「ねっコウ君?」


 そう言って瑠夏さんは光覇兄の腕に抱きついた。


「いやいや、そんな約束してねーから」


「ぶー、コウ君の意地悪ー」


「あー藍那?今のは瑠夏の冗談だから気にしなくていいぞ」


「……私も」


「え?」


「私も光覇兄のこと好きだもん!! だから一緒に結婚しよう光覇兄!!」


 そう言って私は光覇兄の腕、瑠夏さんと反対側に抱きついた。


「なっ……。コウ君は私のだもん」


「瑠夏ちゃんは光覇兄とイチャイチャしすぎです。ちょっとは離れたらどうですか?」


「はー? 藍那ちゃんこそ私のコウ君にくっつかないでくれますー? この泥棒猫!!」


「幼なじみだかなんだか知りませんけど私の方が光覇兄のこと好きですよ!!」


「はああああ!? 私の方がコウ君のこと好きですけどー?」


「光覇兄!!」

「コウ君!!」


「瑠夏ちゃんと私どっちと結婚するの!?」

「藍那ちゃんと私どっちと結婚するの!?」


 こうして私と光覇兄、瑠夏ちゃんによる騒々しい、光覇兄を取り合う三角関係が始まるのだった。


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