第46話 1.4.9 瑠夏との交際⑥

 私、水篠瑠夏はコウ君との思い出を振り返っていた。


 あれはコウ君とアキバデートに行ったときの話だ。


 東京駅11時。


 私はコウ君との待ち合わせ場所に向かっていた。


 あれ、ここの道、再開発で変わってる……。


 と、とりあえず人の多い方についていけばいいよね。


 10分後、私はものの見事に道に迷っていた。


 あれ、ここどこ?


 出口ってどこなの!?


 東京の人混みの中で1人取り残された気分だった。


 不安になった私はたまらずコウ君にLINE通話をする。


『コウ君、コウ君、どうしよう、どうしよう、私、道に迷っちゃった!!』


『何でだよ、瑠夏お前東京出身だろ』


『だってだって再開発? で工事中だったりして久しぶりに東京来たら全然道が違うんだもん!!』


『落ち着け、落ち着け。今何か目印になるものあるか?』


 目印……?


 私は周囲をぐるっと見渡す。


 あっ八重洲東口って書いてある。


『あ、八重洲東口って書いてある』


『何で地下に行ってるんだよ!?』


 10分後、私たちは合流した。


 私は八重洲東口から動くなと厳命され、地上からコウ君が迎えにきてくれたのだ。


「コウくーん。心細かったよう、もう一生会えないのかと思ったよう」


 私はひとりぼっちだった寂しさとコウ君に会えた嬉しさから泣いていた。


 コウ君はそんな私を抱きしめこう耳元で囁いた。


「大丈夫。大丈夫だから」


「ヒャッ……。コウ君、耳はダメ……。弱いから」


 私は初めて知ったことだが耳が弱いようだった。


 コウ君に耳元で囁かれたときビリッと電流が身体中に走る感覚がした。


 自分の性感帯を知ったのはこれが初めてのことだった。


 高校までは手を繋ぐだけで赤くなるような初々しい関係だった(それだけ真面目だった)ので性感帯など知る由もなかった。


「可愛い、可愛いよ、瑠夏」


「ヒャッ……。耳元でそんなこと囁かないで……。私、おかしくなっちゃいそう……」


 私は耳という自分の弱い部分にコウ君から愛の言葉を囁かれて冗談抜きでどうにかなりそうだった。


 私は目がトロンとしてとても公衆の面前でしてはいけない表情をしていた。


 それに気づいたコウ君は私を慌てて解放してくれた。


「ご、ごめん。俺やりすぎたよな、完全に」


 むー。もう少しコウ君に抱き締められたかった。


 でもあのまま耳元で愛の言葉を囁かれてたら自分が自分の知らない場所に行ってしまいそうだったからこれで良かったのかな。


 でもコウ君との初めてができて私、嬉しいな。


「ううん。私も自分が耳に弱いなんて思わなかったから……。でも今度するときは周りの人がいない2人っきりのときが嬉しいかな。あと、私もコウ君の弱い所責めたいし」


「俺の弱い所……!! これからも2人でいろんな初めてを経験しような、瑠夏」


「コウ君……!! うん、分かった!!」


「アキバまではもう離ればなれにならないようにこう手を繋ごうぜ」


 そうコウ君は言って私の指と絡ませて手を繋ぐ。


 まさかの恋人繋ぎだった。


 私は突然の事態に心臓が止まりそうになる。


 もちろん手を繋いだことは何度もあるし恋人繋ぎしたことも数回はあるんだけど何度やっても慣れることはなかった。


 私は茹でダコのように顔を赤らめて緊張していた。


 だが緊張しているのはコウ君も同じだったらしい。


 コウ君からヤバいくらいの手汗が出ていたのだ。


 私に緊張して手汗が出ているのだと分かったらその手汗ですらいとしく思えた。


 コウ君は内心この手汗が私にバレないか心配でドキドキなのだろう。


 バレバレだよ、コウ君。


 もう本当かわいいなあコウ君は。


「コウ君と恋人繋ぎ……!」


 それで私たちは秋葉原駅に着いた。


「帰ってきたぜ、俺たちのアキバ!!」


 突然、コウ君がそう叫んだ。


「ふふ、コウ君いきなりどうしたの?」


「やっぱアキバに来たらこのセリフ言わないとな」


 私はそんな少年のような心を持ったコウ君が好きだ。


 私は改めてコウ君のことを好きになった。


 中高生のとき初めて付き合ったときも別れてコウ君のことを想っていたときも今再び付き合えた今この瞬間だってコウ君のことが好きだって気持ちは更新し続けていた。


 他の人から見たらこんなに好きになるのは苦しくないのか不思議に思うことだろう。


 正直に言うと別れて1人でコウ君のことを想っていたときは苦しかった。


 でも私は待ち続けた。


 コウ君の受験が終わるのを。


 その終わりの見えないコウ君の浪人生活が終わりまた再びコウ君と付き合うその希望を頼りに私は別れた2年半を過ごした。


 私はコウ君とイチャイチャしたいという気持ちを2年半我慢し続けたのだ。


 私の気持ちは爆発しそうで告白してもう一度付き合えたときはこれが幸せなんだ、ああ私は幸せだと思った。


 コウ君が受験を失敗したことは残念に思うけど私は傷心のコウ君を支えて癒してあげると決意した。


 だから長い長い受験生活で疲弊しきったコウ君を思う存分甘やかすんだ、そう決意した。


 まず、私たちはアニメイトに行った。


「天使の子のジュエルちゃんのアクリルスタンドがある!!」


「こっちにはVAOのマンガも売ってるぞ!!」


「プリンセスバトルドールズのCDも売ってるよ!!」


「こっちにはキミキセのサイン本も売ってるぞ。」


「本当!? 絶対買わなきゃ。」


 メロンブックスにて。


「道影ラナちゃんの同人誌売ってるよ!!」


 私とコウ君はオタク趣味という共通点があった。


 だから普段からオタク趣味を一緒に楽しんでいる。


 コウ君とするアニメ、マンガ、ラノベ、ゲーム、Vtuberの話題はとても充実していてとても楽しかった。


 コウ君は受験生時代はオタク趣味から離れていた。


 だから受験が終わって満を持して一緒にオタク趣味を楽しめる、それは望外の喜びだった。


 オタク趣味は1人でもできるけど2人でするともっと楽しかった。


 カップルで同じ趣味を楽しむ、それはきっとレアなケースなのだろう、世間的に。


 だから同じ趣味を楽しむことのできる私たちはラッキーだ、そう思った。


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