第4章

1.4.1 エリス

 イスタンシア王国。


 西方諸国の1つ。帝国主義国。十三国の列強の1つ。


 大航海時代を切り開いた。


 かつて太陽の沈まない国と呼ばれた覇権国家。


 ☆


 異世界。シュタットフェルト精霊学園。


 今日、俺はシルファと日直の仕事をしていた。


 日直は出席番号順なのだが同じスカイマークである俺たち兄妹は自然と同じ日直のペアとなっていた。


 そもそも兄妹が同じクラスになるなんて珍しいことだろう。異世界だからか。


「シルファ、黒板消しクリーナーにかけといたぞ」


「ありがとう、お兄様。日誌ももうすぐで書けそうだよ」


 日直の仕事は黒板消しと日誌である。


 日誌は今日の授業で何をしたのか、その日の感想を書く。


 そして職員室に日誌を持っていき担任のリゼ先生に提出した。


 これで日直の仕事は完了である。


「お兄ちゃ……あっお兄様」


「今は二人きりだしもう皇族じゃないしお兄ちゃんって呼んでもいいんじゃないか?」


「本当!? じゃあ、これからはお兄ちゃんって呼んでいいの?」


「ああ、俺はウェルカムだよ」


 というかむしろお兄ちゃん呼びの方が嬉しい。


 俺はこの子を見ると生き別れの妹、優を思い出す。


 だから俺はシルファに優を重ねていた。


 優もお兄ちゃんお兄ちゃんと呼び懐いてきていた。


 小さい頃はお兄ちゃんと結婚すると言ってくれてたっけ。


 だからシルファが俺のことをお兄ちゃん呼びしてくれるならより優をこの世界のどこかにいる優を思い出せれて嬉しい。


 シルファと優は髪型も顔も違うのに不思議なものだ。


「じゃあ、いくね。……お、お兄ちゃん」


 改めてシルファにお兄ちゃん呼びされると少しくすぐったく感じた。


 それと同時にとても嬉しかった。


 可愛い妹にお兄ちゃんと呼び慕われる、兄としては望外の幸せだ。


 俺はそこで苦笑した。


 やっぱり俺って筋金入りのシスコンなんだな。


 改めてこの可愛い妹を大切にしよう、そう決意した。


「お兄ちゃん!! お兄ちゃん!! お兄ちゃーん!! ……ふふっ。」


「ん? どうしたんだ、シルファ?」


「お兄ちゃんを見ていると不思議です。今ではずっとずっと遠くの世界にいる大切な人を思い出せます」


 大切な人? 本国にそんな人がいたのだろうか。初耳だった。


「その大切な人のことも『お兄ちゃん』と呼んでいました。だからコウハお兄ちゃんを見ているとその人を思い出すことができて嬉しいです」


 なんと!兄妹だから考えることは似てくるのだろうか。


 俺がシルファに優を重ねているようにシルファも俺にその人のことを重ねているのだろうか。


「そうなのか。その人とまた会えるといいな」


 妹に恋人ができるのは少しモヤモヤするけどお兄ちゃんらしく妹の恋を応援しようと思った。


「そうだ。今日、詩音ちゃんとシルファの精霊エリスで模擬戦してくれないか?」


 エリス。


 シルファの精霊。光属性の精霊だ。


 金髪でツインテールをしている。


 聖剣はフレイシアだ。


 これは量産剣で初心者でも扱いやすい。


 エリスはメディカルキュアという回復スキルを使うヒーラーなので剣術スキルはそこまで高くない。


「詩音さんってお兄ちゃんの2人目の精霊ですよね」


「ああ、そうだな」


「エリスのことなんですがお兄ちゃんにサプライズがあります」


「サプライズ?」


「実際に見たら驚くと思います」


 ☆


 こうして詩音ちゃんとエリスは模擬戦を開始した。


「ヤァァァッー!!」


「タァァァッー!!」


 幾度も剣戟が交わされる。


 実力はほぼ互角、いや剣より機槍の方がリーチの長い詩音ちゃんの方が押してるくらいだった。


「エリス、剣術スキル!!」


「了解、剣術スキル!!」


 エリスが剣術スキルを発動する。


 だがそれをただ見てまた負ける俺たちではなかった。


「詩音ちゃん、機槍スキル!!」


「了解、機槍スキル!!」


 そう詩音ちゃんは機槍スキルを習得していたのだ。


 剣と機槍。


 何十、何百と剣戟が交わされる。


「エリス、ユニークスキル、レインオブライト!!」


「了解、レインオブライト!!」


 エリスの背後に巨大な魔法陣が浮かんだ。


 そしてそこから幾筋もの光線が放たれた。


「なっ……!?」


「キャァァァー!!」


 詩音ちゃんに光線が襲来し、機槍が弾き飛ばされる。


 レベル1の詩音ちゃんがレベル80のエリスとユニークスキルレインオブライトを使う前は互角に戦っていたのだ。


 上出来と言えるだろう。


「シルファ、レインオブライトってユニークスキルが覚醒したのか!?」


「うん。そうだよ。昨日のことなんだけどね」


 俺にとってはとてもサプライズだった。


 エリスのレインオブライト、これで俺たちのパーティの戦力はさらに大きくなっただろう。


「一姫、インプレッション・シーカー使えるか?」


 一姫もこの模擬戦を見学していた。


「できると思うよ、ご主人様」


「シルファとエリスに見せたいものがある。一姫のユニークスキルインプレッション・シーカーだ!!」


「ミノタウロスを倒したっていう一姫ちゃんのユニークスキルですか?」


「へー、何だか凄そうだね」


「一姫、インプレッション・シーカー、レインオブライト!!」


「了解。インプレッション・シーカー……レインオブライト!!」


 そうして一姫はエリスが発動したレインオブライトをそっくりそのまま発動した。


「な……!?」


「ええええ!?」


「このようにインプレッション・シーカーは対象のスキルを高速で検索、高速で学習し、スキル模倣するんだ!!」


「最強じゃないですか!?おめでとうございます、お兄ちゃん」


 その後、エリスの回復スキル、メディカルキュアをインプレッション・シーカーで解析、模倣した。


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