1.2.11 凪波の葛藤

 俺は小説投稿サイト『シトラス』で1番目のラブコメのPVを見ていた。


「1000PV……!?」


 ついに1000という大台を越えたのである。


 俺は有頂天だった。


 長い間目標だった1000PVを越えたのである。


 嬉しくて嬉しくてたまらなかった。


 ☆


 俺は凪波を実家まで送り届けていた。


 俺は凪波が毎日下宿先に来るようになってから帰るときは夜遅くなので横浜の下宿先から東京の実家まで毎日送り届けていた。


 俺は凪波のことが心配な立派なシスコンだった。


「ちょっと質問なんだけど……兄貴、大学にちゃんと行ってる?」


 ギクッ。


「私が兄貴の家に行くといつも家にいるからいつ大学に行ってるか疑問なんだ」


「ああ、実は……行ってない」


「やっぱり。どうして行ってないの?」


「俺は怖いんだ。つかさに会うのが……。俺は友達のつかさを裏切ってしまった。今さらどのツラ下げて会いに行けばいいんだ?」


「兄貴、いつまでも現実から逃げてたら駄目だよ。このままだと留年確定でしょ。お父さんにあまり心配をかけさせないでね」


「実はもう2留が確定してる」


「現実から目を逸らさないでね。私も兄貴には頑張ってほしいと思ってるから」


「ああ、分かった」


 ☆


 私は宮内凪波。


 高校2年生だ。


 趣味はアニメ、マンガ、ラノベ、ゲーム、イラストのいわゆるオタクである。


 得意科目は生物である。


 顔は中の上くらいだ。


 あと述べるとすると兄貴のことが大好きで大好きで大好きなブラコンなことだろうか。


 小さい頃の夢は兄貴のお嫁さんだった。


 兄貴に対する好きが妹としてではなく、一人の女性としてのものに変わったのは中学生の頃だった。


 中学生の時、私はお父さんに呼び出された。


「凪波、お前に言っておかなければならないことがある。……実はお前は光覇の妹ではなく従兄妹なんだ」


 ことのあらましはこうだった。


 私の実の両親はお父さんの弟夫婦で交通事故により亡くなってしまい、私はお父さんに引き取られたらしい。


 まだ0歳の頃だった。


 妹から従兄妹。


 関係性が少し変わっただけのように見えるが重大な違いがある。


 それは結婚できるということだ。


 兄貴と結婚……!


 小さい頃の夢、兄貴のお嫁さんが叶うかもしれないのである。


 その可能性を見出した私は心臓がバックバックとなった。


 しかし、その後、私はハッとする。


 兄貴には当時すでに彼女がいたのである。


 瑠夏さんだ。


 瑠夏さんは私から見てもため息が出るくらいの美少女でこんな人が兄貴の幼なじみだなんて信じられなかった。


 2人は相思相愛でお似合いのカップルだった。


 瑠夏さんは私にも優しくしてくれて私は瑠夏さんのことを好きになった。


 それで私は決めた。


 この恋心を兄貴に隠し通して無邪気な妹になることを。


 だというのに。だというのに〜!!


 兄貴が二股するクズ野郎になったのである。


 ある日、兄貴は藍那さんを家に連れてきて瑠夏さんに二股していいか聞いてきたのだ。


 藍那さんも瑠夏さんと同じくらい美少女で幼なじみ、しかも一目惚れしたと来た。


 瑠夏さんは涙を流しながら


「コウ君が少しでも私のことを見てくれるなら二股しても良いよ」


 と言って二股を許可してしまった。


 そこで私は気づいた、1つの可能性を。


 二股が許されるなら三股も許されるのではないかという。


 いけない。とっくの昔にこの恋心に蓋をしたはずなのに。


 また私の中で恋心が再燃してしまった。


「兄貴の馬鹿……。なんで二股なんてするの?」


 私は兄貴と瑠夏さんが相思相愛だから身を引いたっていうのに。


 三股という可能性に一瞬、希望を感じてしまった私はもっと馬鹿だ。


 私はこの恋心をどうすればいいの?


 いくら考えても答えは出ずモヤモヤとしたままだった。

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