1.2.6 2番目の幼なじみ

「よしっ書き上げた。」


 俺は人生初めてのラノベ作りを終えた。


 なぜラノベ執筆をしようかと思ったのかというと読書好きが高じて自分が心の底から面白いと思える作品を読みたくなったからである。


 あと、老後でも楽しめる趣味が何かないかと考えたらラノベ執筆だったからである。


 結構自信があるが読者にこの思いは届くだろうか。


 不安半分、楽しみ半分で俺は小説投稿サイト『シトラス』の公開ボタンをスマホで押した。


「公開……」


 これで俺の作品が全世界に公開されたのである。


 1日後。


 俺はスマホで自分が書いたラブコメ作品のPVを見ていた。


「3PV……! 応援も1人してくれてる!?」


 よし、それだけで俺の作家としてのやる気スイッチはうなぎ上りになる。


 そして2時間くらいで2話目を完成させる。


「公開……」


 公開ボタンをタップした。


 ☆


 俺は電車で東京に来ていた。


 月に1回の遊びに来ていた。


 まず、アキバのアニメイトやゲーマーズ、メロンブックスでラノベ、マンガ、同人誌、アニメグッズ、美少女ゲームを購入した。


 その後、東京駅に移動し大きな本屋をいくつかハシゴし一般の小説を購入した。


 今日だけで2万円近く消費したがほくほくの体で俺は横浜に帰った。


 その電車の車内。彼女を見つけた。


 可愛いと思った。可憐だと思った。美しいと思った。


 俺は一瞬でその子に目を奪われてしまった。


 心臓の鼓動がいつもより激しくなったことが自分でも分かった。


 一目惚れだった。


 次に生まれたのが罪悪感だった。


 瑠夏という彼女がいるのに他の女の子に心を奪われるなんて彼氏失格である。


 その子が俺の最寄り駅で降りることが分かった。


 俺も慌てて降りる。


 そのときだった。


 その子が駅のホームでICカードを落としたことが分かった。


 ICカードを拾ってその子の元に駆け寄る。


「あの……ICカード落としましたよ」


「ありがとうございます」


「その缶バッジ、キミキセのファンなんですか!?」


 女の子のバッグにキミキセの綺羅崎日菜きらさきひなの缶バッジがついていたのである。


 俺は同志を見つけて嬉しくなりつい話しかける。


 綺羅崎日菜は成瀬唯と高嶋愛花のライバルチームに所属している。


「……はい、キミキセのファンです」


「俺の推しは詩音ちゃんです。推しはやっぱり日菜ちゃんですか?」


「はい、はい、そうです。詩音ちゃんとはなかなか分かってますね」


 それから俺たちはキミキセについて語り合った。


 1期のエンディングは感動したとか2期の7話は神回だったとか話した。


 時刻は午後8時。


 まだまだ話足りなかったがお腹も空いてきたのでマックに行くことにした。


「自己紹介がまだでしたね。俺は宮内光覇です」


「ええええ!? 光覇兄!? 本当に光覇兄なの!?」


「光覇兄ってもしかして藍那あいな!? 藍那なのか!?」


「そうだよ。私は佐倉さくら藍那だよ」


「マジか……」


 佐倉藍那は幼稚園時代の幼なじみである。


 瑠夏と藍那はどちらが俺と結婚するかでよく揉めていた。


 光覇兄という呼び方から分かるように1コ年下である。


 もう小さい頃のことなので顔はうろ覚えだった。


 笑顔がとてもかわいかったことは覚えていたが。


 小学校からは違う学校に通っていたので疎遠になっていたのがこんな形で再会するとは。


 一目惚れした相手が幼なじみだったとは運命としか言いようがない。


 そこで沈黙が場を支配する。


「ちょっと大事な話があるんだけど……」


「大事な話?」


 なんだろう、とても気になる。


 そこで藍那が深呼吸し、じっと見つめてくる。


「好きです。付き合ってください!!」


 え!え?ええええ!?


 あまりの出来事に頭が真っ白になる。


 俺のことが好き!?


 好きって好きだよな。


 ライクじゃなくてラブ的な。


「ずっとずっと光覇兄のこと好きだった。離れている間もずっと。私の初恋は光覇兄、あなただったんだよ。時間が経てば私の気持ちが小さくなるかと思ってた。でも違った。逆だった。逆に光覇兄に対する私の気持ちは大きくなってた。だから好きです。付き合ってください」


「……嬉しい、嬉しいよ、藍那。……ただ俺には彼女がいるんだ」


「え……嘘……彼女?」


「俺には彼女がいる。彼女がいる、それは事実だ。俺は彼女のことを一生大切にしたい。それは本心だ。……ただ藍那、君に一目惚れしたのも事実なんだ。君のことも一生大切にしたい。今はそう思ってる。……だから最悪の提案だけど二股して良いか彼女に頼んでもいいか!?」


 こうして俺は二股の提案、瑠夏と藍那に最悪の選択肢を示すことになった。


「……え?……ええ?……うん、いいよ」


「本当か!? ありがとう!!」


 藍那は俺のそんな最悪の提案を承諾してくれた。




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