「さぁ~ソウ、こっちへ来て」

 ゆっくりとその人は、近付いて来る。

「まさか…ハルちゃん?」

 嘘だろ?

目の前に立つその人は、あの女の子ではない。

すでに成熟した、大人の女性だ。

ボゥッと浮かび上がるその姿は、まるで幻のようだ。

「キミは…どうして、こんなことを?」

 すでに出口は、ふさがれてしまった。

「他の二人は?」

自分一人が、ここに閉じ込められてしまった。

「安心して」

彼女は爽に向かって、微笑む。

「あの二人は…この外にいるわ」

まっすぐに、手を差し伸べる。

「やっと、会えた!

 私はもう何年も…あなたがここに来るのを、待っていたのよ」


 もう何年も?

 ボクたちは、会ったことがあるのか?

情けないけれど、爽にはその記憶がない。

だがら、いくら言われても、どう反応したらいいのか、

わからないのだ。

「ねぇ…どうして、ボクなの?」

ジリジリと、二人の間の距離が狭まってくる。

本当に、これでいいのか…と、爽の心が揺れている。

「どうしてって?」

 何を今さら、聞いてくるの?

ようやくハルちゃんの足が、ピタリと止まる。

「だって、ボクたち、初対面でしょ?」

思い切って爽が、ハルちゃんに言う。

「えっ」

明らかに彼女は、爽の言ったことが、受け入れられないようだ。

「あら、初めてじゃあないわよ。

 あの日も会ったはずよ。

 だって、私…あなたのことを、覚えているもの」

思いがけない言葉が、彼女の口からもれる。

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