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 こわい。

 こわいけれど、この声にあらがうことが出来ない。

まるで自分の身体が、彼女に乗っ取られたみたいだ。

「そんなに心配なら…ボクにヒモをつけたら?

 そうしたら、さすがに連れて行けないんじゃあないのか?」

からかうように、爽が言う。

するとトモヒロは、真面目な顔をして、爽のリュックを探す。

「ロープ?

 ロープかぁ~あったかなぁ?」

ファスナーをあけて、ゴソゴソと探し始める。

「おいおい、やめろよぉ。

 それより、お面はなくすなよ」

自分でそう言いながらも、ふいに爽はハッとする。

「お面だ!」

思わず声をもらす。

「なぁ、お面!

 ちゃんと、中に入っているか?」

トモヒロに、確認するように聞く。

「お面?」

 何に使うんだ?

トモヒロは、キョトンとしている。

「だから、お面だよ!

 あの子は…あのお面を探しているんだよ」

「お面か?」

 なんだよ、それ。

トモヒロは、呆れた顔になる。

「何だよぉ~お面は、持ち主を探して、返すんだろ?」

 忘れたのか?

だから、ずっと調べようとしているのに。

トモヒロは、「大丈夫か?」と、爽の肩に手を触れる。


 だがオジサンは、背中で二人の会話を聞いている。

「なるほど。そうなのか」

どうやら、何か思い当たることがあるようだ。


 

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