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「もうすぐ、着くぞ」

 前を向いたまま、オジサンが爽たちに告げる。

「あそこに何か、あるのか?」

明日も来るというのに…何でわざわざ行くのか?

という思いが、透けて見えている。

「わからないけど…

 ハルちゃんが、そこにいる、と思うんだ」

キッパリとそう言うけれど、自分でも、どうしてそう思うのか、

わからない。

だけどもなぜか、爽はそう確信している。

「ハルちゃんが?」

 トモヒロの声が裏返る。

「えっ?それって、ハルちゃんのユウレイ?

 それとも、お面?」

面食らった顔をして、爽に向かって言う。

「何だよ、それ!

 化け物扱いはしないでくれよ」


 トモヒロがそう言うのも、ムリはない…

さっきから爽は、あり得ないことをしているからだ。

「おまえ…連れて行かれないように、精々気をつけろよ」

トモヒロは真剣な声で、爽に向かってさとす。

「えっ、なんだよぉ」

ヘラッと爽が笑うけれど、トモヒロの表情は硬いままだ。

「そうだよ、おまえ…あの子に操られて、どこかへ行って

 しまわないように、気をつけろよ」

ミラー越しに、オジサンは爽のことを見ている。


「何なんだよ、二人とも!」

 あからさまに、心配そうに言う二人に向かって、爽は

ゲラゲラと笑う。

「そんなに、マジになるなよ!

 ボクはまだ…ユウレイじゃあないんだぞぉ」

わざと、オチャラケタ声で笑う。

 だが、爽自身だって、不安じゃないわけではない。

この感覚…

さっきから自分の頭に直接、ハルちゃんの声がコダマしている。

「ソウ…こっちへ来て。

 私を、探して。

 早く…早く…」


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