33

 おそらくトモヒロは…爽がまだ、寝ぼけていると思っている。

(もちろん、そうなのだが…)

だけど、例えそれが夢だったとしても、あの女の人はホンモノ

だったと信じている。

だが、それをトモヒロに言っても、きっと爽がおかしなことを

言っている、と笑うことだろう。


「やっぱり、この村のどこかに、いるんだよ」

 取り繕うように、爽は言う。

「まぁ~そうだといいけどな」

まだトモヒロは、ニヤニヤしている。

「すいぶん、いい夢だったんだろうなぁ」

爽の顔を見て、まだニヤついている。

「で、きれいな人だったか?

 女の子じゃない、というのなら、大人の女性だったのか?」

ヘラヘラしながらも、聞いて来る。

「おまえ…バカにしているんだろ」

さすがに爽はムッとして、トモヒロに言い返す。

「そんな夢なら…ボクも見たかったなぁ」

羨ましそうに、トモヒロが言う。

「ばかなことを言うなよ」

トンと、トモヒロの肩を押す。

「やっぱり、あのお面があるから、見たのかなぁ」

爽はボンヤリとする。


 確かに、不思議な夢だった。

まだ…夢と現実の境い目が、曖昧でボンヤリとしているけれども。

「でも…その人は、何をして欲しいんだろう?」

急に思い付いたように、トモヒロが爽に言う。

「えっ?」

爽は不意をつかれたような気がする。

「だから…見つけて欲しいんだろ?」

それは本人も、言っていた。

「でも…それだけなのかなぁ?」

こういうのは、もっと複雑な背景があるような気がする。

トモヒロも、何か奥歯に物が挟まるような言い方をする。

「何がいいたいんだよ」

思わせぶりな言い方はやめて、そのものズバリを、ハッキリと言ってくれ。

爽は、トモヒロの瞳をじぃっと見詰める。

はぁ~

トモヒロは、ため息をつく、

「だから…本当は、他に何かして欲しいことが、あるんじゃあないのか?

 例えば…仕返しをして欲しい…とか、何かを見つけて欲しい…とか」

それは、爽は考えてもいないことだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る