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若者の話は尽きることがなく…
ようやく眠ったのは、日付が変わって少ししてからだった。
気が付いたら、どちらともなく、泥のように眠っていた。
あまりにも、静かな夜だった。
車の音も聞こえないし、話し声も聞こえてこない。
こんなに静かなのは、初めてだ…
ボンヤリと爽は、そんなことを思っていると…
フワリとレースのカーテンが、風に揺れた。
喉の渇きを覚えて、身体を起こそう…と、思っていると、
枕元に、人の気配を感じた。
「どうした?トモヒロ…
トイレは、階段の下にあるよ」
声をかける。
「ソウ…」
トモヒロではなく、女の人の声が聞こえた。
(えっ?母さん?)
まだ眠気が覚めないまま、爽はボンヤリと目をあける。
「会いに来てくれたのね」
高くて澄んだ声が、爽の耳元に淡く響く。
(あの子だ…)
直感的に、爽はそう思う。
目を開けると、白くてむきたてのゆで卵のように、ツルンと
した肌の女性が立っている。
(あれっ?)
キツネの女の子ではない…
だがすぐに、この人はあの女の子だ…と、なぜか爽にはわかる。
「私はずっと、あなたが来るのを、待っていたのよ」
にっこりと微笑んで、その人は言う。
「あなた、私が送った『しるし』を、見つけてくれたのね」
にこやかにその人は、爽に向かって手を差し伸べる。
細くて、白く透き通るような腕だ。
爽は黙ってうなづく。
それからすぐに、
「あの…あなたは、どこにいるのですか?」
ようやく声が出た。
その人は細くて、薄い背中をクルリと向けると
「あなたなら、きっとわかるわ。
私を…見つけて」
そうささやくと、スゥ~ッと夜の闇の中に溶けていく。
あわてて手を伸ばすと…スルリとすり抜けて、空をつかんでいた。
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