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「うーん」
懐かしい想いはするものの…爽にとっては、どこか遠い昔の
ことのように感じる。
もっとも中学に入ってからは、夏休みどころではなく…
ここに来ることもなくなったのだけれども。
「じいちゃんに、話を聞いてみたかったなぁ」
ポツンと爽は言う。
じいちゃんは、いわゆる昭和の頑固オヤジの典型で、とっても
おっかなかった。
だけどなぜか、爽はそんなじいちゃんのことが、大好きだった。
口数が少なく、無骨ながらも、いつも爽と遊んでくれたのは、
じいちゃんだったからだ。
「おじいさんが亡くなったから、来なくなったんじゃあないの?」
パラパラとページをめくりながら、トモヒロは爽に話しかける。
「いや、その前から、来なくなった」
自分でそう言うのだが、ふと爽は気づく。
どうしてだろう?
あんなにここに来るのを、楽しみにしていた、というのに!
「母さんが忙しくなって、連れて来てくれなくなったからなぁ」
鬼のお面を見ながら、爽は頬杖をつく。
「一人で来れば、よかったんじゃあないか?」
中学になったら、自分で来れたんじゃあないか?
トモヒロが、顏を上げてそう言う。
「そうだなぁ~」
そう言われたら、そうだ。
どうして、そうしなかったのだろう?
自分の中では、その選択肢はなかった…と思う。
「だろ?爽が来たい…と言ったら、止めなかったと思うけどなぁ」
トモヒロが言う。
けれども、それも爽自身、よくわからなかった。
あの時の自分は、何を考えていたのだろう?
さっぱり、わからなかった。
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