29
ようやく帰ってきた…
爽は鬼のお面を、そっと机の上に置く。
一時、この家に暮らしたことがあったために、爽の部屋が
今でもここにあるのだ。
「見れば見るほど…迫力があるなぁ」
トモヒロは、例のお面をじぃっと見詰める。
「夜に見ると、怖いかもなぁ」
今にも動き出しそうなくらい、大きな目がうがたれている。
椅子に座ると…今の爽には、低すぎるくらいだ。
クルクルと回して、高さを調節する。
「ここ…お前の部屋なのか?」
トモヒロは珍しそうに、部屋をながめる。
まるで時間が、子供の頃のまま、止まっているようだ。
「うわっ、懐かしい…ゲームボーイか?」
「うん、勉強するのを条件に、買ってもらったんだ」
毎年、夏休みの宿題は、このじいちゃんの家でするのが、
ならわしだった。
「へぇ~いいなぁ~」
羨ましそうに、トモヒロはゲームのカセットを手に取る。
爽は、グルンとイスを回すと、
「え~そうかぁ?
友達と遊びにも行けないし、旅行にも連れて行ってもらえない
んだぞぉ」
そう言いながらも…ここでザリガニ釣りをしたり、メダカを探したり、
セミ取りをするのが、結構楽しかったことを思い出す。
「ボクのトコは、田舎がないから…
毎回、つまんなかったぞぉ」
別に、どこかに連れて行ってもらったわけじゃない。
せいぜい、学校のプールだ…
トモヒロは、本棚に並べてあるマンガを眺める。
「そうかぁ?」
「そうだよ!」
確かに、ここに来るのは嫌いじゃあなかった。
だけど…
「いつの間にか、来なくなったんだよなぁ」
その方が、つまらなかった。
「何か、あったのか?」
一冊、本棚から抜き出す。
トモヒロは早速、ベッドに座って開く。
「それが、よく、わからないんだ」
そう答えながら、爽自身も妙だ…と感じる。
「じゃあ、ここに来たのは、それ以来なの?」
マンガのページをめくりながら、トモヒロは爽に尋ねる。
「そうだな」
「その辺りに…何かあるのかもしれないな」
目は、ページに落としたまま、トモヒロは爽に向かって
話しかけた。
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