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 だが、おばあちゃんはキョトンとした顔をする。

「何を言っているの?ノリヒロ…

 これはとっくに封印されて、ここにはないはずなんだから!」

大きな声でそう言う。

「えっ?」

どうも…何か話に、食い違いがあるようだ。

「ちょっと、こっちへ」

オジサンは二人の背を押して、部屋を出る。


「悪い!オフクロは時々、妄想癖があるから、本気にしないでくれ」

 人目がないことを確認すると、ボソボソッと耳うちをする。

だが、ガラリとふすまが開くと、

「あら!妄想じゃあないわよ!本当のことよ」

おばあちゃんの目は、しっかりと光が灯っている。

どうやら完全に、スィッチが入っているようだ。

「ねぇ、おばあちゃん。

 キツネのお面の女の子って…知ってる?」

 思い切って、爽はおばあちゃんに聞いてみる。

もしかしたら、今なら聞けるかも、と思ったのだ。

「キツネ?

 おまえ…キツネにさらわれそうに、なったじゃないか」

どうもおばあちゃんは、聞き間違えたようだ。

「キツネに?えっ?キツネにさらわれそうになったの?」

思わずトモヒロが、声を上げる。

(そんなことを、ボクも聞いたことがないぞ!)

爽もおばあちゃんの顔を見る。


「えっ」

 その声に、初めて気づいたように、おばあちゃんはハッとして

こちらを向く。

「誰だい、この子」

爽に向かって聞く。

「えっ?おばあちゃん、さっき言ったでしょ?

 ボクの友達のトモヒロだよ」

いきなりの異変に、爽はビックリして聞き返す。

爽が言い直した時には、おばあちゃんの目の色の光が消えて、

トロンとした鈍い色に変わる。

「あぁ、そうかい?

 ソウ?おまえ、帰って来たのか?」

先ほどとは、まったく違う表情で、ヘラリと笑う。

「オフクロ…さっき会っただろ?

 疲れたんじゃないのか?

 部屋に戻ろう」

 オジサンが、おばあちゃんの背中に手を回すと、

今度はおとなしく、それに従う。

 どうやら、スィッチが切れたようだ。

トモヒロも爽も、ポカンとその様子を見守っていた。


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