12

「お姉さん、ご用事があるんだって」

 ポツンと、女の子は言う。

「そう」

「で、ここのお兄さんに、渡したいものがあるけど、ムリなんだって」

おそらくは、彼女にそう言うように、言われたのだろう。

この子自身は、意味がわからないままに、引き受けたようだ。

(まさか、風船につられたのか?)

時折、奪われまいとするように、ギュッと風船を抱く仕草をする。

「そうなんだぁ」

トモヒロはにこやかに、女の子の顔を見る。

「だからね、これをポストに入れてって」

時々帰りたそうに、キョロキョロとする女の子のことを、トモヒロは

辛抱強く相手をしている。

「ふぅーん、そうなんだぁ」

教えてくれて、ありがとう…

トモヒロは、ニッコリと笑った。


「大したもんだなぁ」

 まさに、適材適所だな、と爽はトモヒロのことを褒めちぎる。

もちろん少し、イヤミも含まれてはいたのだが。

「ボクが相手だと、あぁはいかないだろうなぁ」

トモヒロは、これ以上聞いても、もう何も出て来ないだろう…と、

女の子をねぎらって、そのまま解放した。

「お前が一人で探せば、見つかるんじゃないか?」

むしろ爽よりも、サクサクッと見つけ出すかもしれない。

 だがトモヒロは、ははっと笑うと

「なんだ?今度はヤキモチか?」

からかうように、爽を見る。

「へぇ~ソウって、あんな女の子がいいんだぁ」

さらに重ねて言うので、

「おい、何を言っているんだよ」

バカにするなら、サッサと帰れよ、と爽はムッとして、トモヒロの

背中を押す。


「おい、冗談だよ」

 かんしゃくを起こして、部屋を出て行こうとする爽に、

「なぁ」とトモヒロは、追いかけるようにして、話しかける。

「ホント、たちの悪い冗談だな」

ブスッとして、立ち止まる。

「それよりも…さっきの中身、何だった?」

トモヒロに言われて、爽は思い出す。

さっきの女の子に、話を聞き出すので精一杯で、すっかり後回しに

なっていた、ということを…

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