「あと、もう少しだ」

 トモヒロの声に、爽はさらに、身体をベランダから乗り出す。

(せめて誰かが、身体を支えてくれたらなぁ)

ひそかに、そう思う。

足を柱に引っかけるようにして、ギリギリまで身を乗り出す。

(もう少しだ、あと少し…)

グイグイグイ…

布団たたきで引き寄せて、さらに手を伸ばす。

あっ!

ようやく、風船のヒモを捕まえた。


「ありがとう」

 さっきまで、恨めしい目で見ていたことなど、ケロッと忘れた

ように…

女の子は、しっかりと風船のヒモを手に巻き付ける。

「どういたしまして」

家に、トモヒロと女の子を招き入れると、ようやく自分も

ひと息つく。

「怖がらせて、ごめんね」

まずは、謝る。

これは、大切だ。

何とかこの子の警戒を、解かないといけない。

「ねぇ、キミは…この家の近くに住んでいるの?」

 無難な質問を投げかける。

あせるな!

あせっては、ダメだ。

まずは何とか、突破口を見つけよう。

 本来ならば、ここから一気に聞き出したいところなのだ。

だがここは、ぐっとガマンだ。


 女の子は「へっ?」という顔をすると、プルプルと頭を振る。

「へぇ~そうなんだぁ」

トモヒロは、ニコニコしながら、

(もっとうまく、話をしろ)

口をパクパクさせて、爽にプレッシャーを与える。

(ズルいぞぉ~)

自分は、傍観者を決め込むつもりなんだ。

それは何だか、しゃくだけど…

ここは、頑張りどころだ。

爽は思いっ切り、笑顔を貼り付けた。

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