「あっ、ごめん」

 女の子は悔しそうに、上を見上げている。

風船は、フワフワと舞い上がると、爽の家の方に向かって、飛んで行く。

「あっ、ちょっと待ってて」

せめてもの罪滅ぼしに…と、爽は急いで、風船の後を追いかける。

「うーん、何か棒があればなぁ」

電柱に引っかかったら、ちょっと厄介だ。

何かないかと、キョロキョロしていると…

風船は、爽の家の屋根の所で、ピタリと止まる。

「あ~」

女の子は、残念そうに、声をもらす。

「ソウ!」

何とかしてやれよ、とトモヒロは爽をうながす。

(まったく…人使いが、荒いんだから)

そう心の中でつぶやくけれど…

とにかく、今のところは、手掛かりはこの女の子しかいない。

爽は家の方に駆けだすと、急いで玄関に飛び込んだ。


 幸い、両親は留守だ。

たまたま目に付いた、布団叩きを手に取ると、二階のベランダ

から外をのぞく。

「おーい、どこだぁ?」

下にいる二人に向かって、声をかける。

「あそこだよぉ~もっと、左!」

 トモヒロの声に、ベランダから身を乗り出して、屋根をのぞく。

ベランダの隣の部屋の柱の突き出た所に、かろうじて風船が

引っかかっているのが見える。

「あれかぁ」

手が届くだろうか?

 爽はベランダから、さらに身を乗り出すと、手を伸ばす。

きゃあ!

さすがに、見ていられないのか、女の子が悲鳴を上げる。

悲鳴を上げたいのは、こっちだよぉ~

そう言いたいのを、爽は必死で飲み込む。

グラリ…と身体が揺れる。

わずかに、風船のひもが、爽の指先に触れた。

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