まさか…な。

爽はトモヒロと、目を見合わせる。

だが、すぐに、その女の子にも聞いてみよう…と、気を取り直す。

(なるべく、怖がらせないようにな)

トモヒロは目で、爽に合図をする。

小さな女の子の相手など…どうしたらいいのか、わからない。

(うん、わかってる)

それでもゆっくりと、その女の子に近付くと、

「ちょっと、聞きたいことが、あるんだけど」

なるべくよそ行きの声で、その女の子に話しかけた。


(慎重にな、怖がらせるなよ)

 口をパクパクさせて、トモヒロは爽の方をうかがっている。

(わかっているってば)

目で返事をする。

 その女の子は、初めは、自分に話しかけられているとは、気が付いて

いないようだった。

「ちょっと、そこの、赤い風船のおじょうちゃん!」

つい爽が、強めの声で話しかけると、女の子はビクンとして、その場に

立ち止まる。

(おい、気をつけろよ!)

トモヒロが、目を三角にして、こちらを見ている。

(わかってるってば!)

爽は見返すと、おもむろにニコニコしながら、女の子に近付いて行く。

「ごめん、ごめん。驚かせちゃったよね。

 ボクは、あの家に住んでいるんだけど…」

自分の家の方を指差す。

その瞬間、女の子は叱られるとでも思ったのか、あわててクルリと背を

向けると、パッと走り出した。

「あっ」

すると、その手からスルリと、風船が離れて行く。

「あっ!」

初めてその子は、困ったように声をもらすと…

恨めしそうな目で、爽をにらみつけた。

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