第18話 たしかにイケル
屈強な男たち。
腕は丸太みたいで、血管はゴムチューブのよう。
体のいたるところに傷がついているような元・傭兵とか夜の世界のボディガードみたいな、そんな奴ら――が、地面に倒れている。
「ううう……」
「ぐふ……」
「……///」
中心に居るのは俺だ。
手を握って、開く。
体を軽く動かし、その場でジャンプ。
四発食らってしまったが、まあ、平気か。
青くはなってるし、明日は腫れそうだけど。
「な、なんだこいつ……?」
遠くの木の陰から、白銀のいい名づけ――たしか、金城とかいうボンボンボーイが顔を出す。
顔を出しているだけで、体は木の陰である。
で、叫ぶ。
「お前! お前、なんかチートつかったろ!?」
「現実にチートなんかねえよ」
俺は唾を吐いた。一発は顔にくらっていたのだが、どうやら口の中がきれているようだ。
くらった瞬間に反対側に力を逃がしたので、骨に異常はないだろう。
顎にくらってたら一発で失神してただろうが、なんとかずらした。
「やっぱ三人はきついわ。霜崎家って基本的にタイマン家系なんだよ」
「意味がわからんぞ! このチート野郎め! 覚えてろよ!? 今度はもっとすごいの連れてきてやるからな!?」
言いながら、金城は木々の中に消えていった。忍者みたいなやつだ。
遠くから甲高いスポーツカーのマフラー音が聞こえてきたので、奴が逃げたのだろうと判断。
男たちも放っておいていいだろうよ。
「霜崎……くん?」
恐る恐る、といった感じの声に振り返る。
白銀がもじもじとして立っていた。
「なんだよ? 俺は多少、恨んでるからな? 人を道具みたいに使いやがって」
「霜崎、様って呼んだら許してくれるかなー? って」
「はぁ?」
「……霜崎くんって何者? 強すぎない? ぶっちゃけ、異常だと思うけど」
「申し訳ないが、世界は広いぞ。俺より強い奴なんてごまんといる。姉は俺の数倍強い」
「まじで……」
「まじだ。なお、妹も二倍ほど強い」
「こわ……」
「そうだよ、こわいよ……」
なんか寝込みとか襲ってくるんだよな、我が妹は。
それも疲れて、起き上がれなさそうな時に限って、馬乗りになってくるのだ。
あれ、いつも思うけど、あと10秒反応が遅れると、ヤられるんだろうな。
主に、首とか絞められて……。
白銀はパチンと手を合わせた。
「でも、本当に助かったし、すっきりしたー! ありがとう、霜崎くん! じゃ! また明日学校で!」
「まてこら」
俺は一足飛びに近づいて、白銀の襟をつかんだ。
「ひいい! ごめんなさいもうしわけありませんおそわないでわたしまだけいけんないんですせめてへやのなかがいいですさいしょがそとなんてあんまりですーーー!」
「……お前は俺をなんだと思ってんだ」
悪魔か、鬼か?
「……鬼畜格闘家」
「畜生!」
あんまりだ!
「だって、あんな男の人ら三人相手に、ほとんど圧勝じゃん……やばすぎるよ……なんで童貞なの……? 信じられない」
「俺はお前の発言が信じられねえよ……とにかく、そんなことはしないから、今後の方針だけ教えてくれ」
「方針? まだ助けてくれるの?」
「どうせ、そういうつもりで近づいてきたんだろ?」
ホテル街での一件から、いろんなことが不自然すぎるんだよ。
こいつ、絶対に俺の飛び蹴りを見て「この男、使えそうだぞ?」とか考えたに違いない。
で、この結果だ。
「霜崎くうぅうぅん、やさしいいいいい」
涙目の白銀は、その美貌を維持したままコミカルな動きで、俺に抱き着いてきた。
やべえ。すげえ良い匂い。
やけにやわらかい2つのプニプニが俺の胸にごっつんこしてる。ありさんとありさんじゃない、べつのなにかのごっつんこだ!
だけど――もう一人のオレは無反応だった。
指南さえしてくれない。
ああ、これじゃあだめなんだな。
だって……なんか嘘っぽいもの。
「はいはい。離れろ。課金されたアイドルみたいな雑な対応すんな」
「そんなつもりはないけど。お礼のつもり? そういうの」
「お前、美人すぎて、自分に価値があることわかっちゃってるのな? でも今の俺にとって、白銀はただの人間だぞ」
「は、はあ!? 失礼なんですけどっ! わたしがカワイイとか美人とか、鼻にかけてるような言い方しないでくれるっ」
「はいはいはい、わかりましたよすみませんね――まあ、今日はいいや、疲れたから。明日以降、説明しろよ」
「ちょっと待ちなさいよっ、わたしのパンツでも見て興奮すりゃいいのよっ」
「あぁ……? またサラリーマンに連れ込まれてもたすけねえぞ?」
「ひ、ひい……その目、やめてよ……なんか体が勝手に震えるんだから……」
ガクブルし始めた白銀は、意外と、野生の勘みたいなものはあるのかもな。
それにしても疲れるやつだ……。
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