第17話 俺は道具じゃねえぞ

 なんだか俺とは住む世界が違いそうな男女がペラペラと御託を並べて話している。 


 つまりあれだろ。


 男は許婚イケメンで金持ちで、白銀はその敷かれたレール拒んでいると。

 で、男に対するあてつけで、白銀は色々と先に経験してやろうと。

 そういうわけだ。

 サラリーマンに連れ込まれそうになっただけでビビるような女がね……。


 このあとはなんだ?

 

 あれか。

 まさか『本当はさびしかったのぉ』とか言って、男と白銀が抱き合うのか?

 それとも『実は君に……黙っていたことがある』とか言って、衝撃の事実と共に『……! 好きぃ!』とか言って、抱き合うのか?

 あとは、俺をうまく利用して『この人と付き合ってるから、許嫁はあきらめなさい』とか言うのかね。


 まあいいさ。

 すべてを想定し、俺は何が来ても驚かない。


 自然豊かな公園。

 夕暮れの中。

 男は手を叩いた。


「よし、よくわかった。真白ちゃん……いや、真白。キミは少々、僕が調教してあげる必要があるね――おい! お前ら! まずはこのバカ面男子を痛めつけろ! それから真白を拉致監禁!」


 木々の陰から、元軍人みたいな屈強で多国籍な男性らがにゅっと出てきた……。


「おい!? さすがにこの展開は想定してねえぞ!? あいつ犯罪を四文字熟語みたいに叫びやがった!」


 俺が叫ぶと、白銀は『やれやれ』といった感じで首を振る。


「だと思った。霜崎くん、連れてきて正解だ」

「正解できねえよ! こんな展開!」


 もっとラブロマンスとか昼ドラ的な展開を想定してたわ!

 完全にカンフーモノの展開だろうがっ。


 白銀は小さく息を吐く。


「まあ、落ち着いてよ、霜崎くん。キミならこいつらだって倒せるでしょ。わたしは確信してるわ。キミは今まで見てきた護衛たちよりも、さらに数段階強い」

「ふざけんな。俺の姉ならまだしも、霜崎家落第者の俺には無理だ」


 その時である。


『いや、それは違うぜ……?」


「オレ!?」


 もう一人のオレの声が聞こえる……。


『お前はいま、雑念が消えているせいで、強くなっているのだ。今までなら、近くにミニスカートの美少女が立っているだけで、妄想が止まらず戦えなかっただろ?』


「たしかに……そういえば、雑念がないな……」

「は? なに? だれと話してるの?」

「俺のオレだ。内なるオレ」

「はぁ?」


 白銀が首をひねる。


『ちょうどいい相手じゃないか。自分を知る機会だ。負けてもお前は被害者面できるし、勝ったら……そうだな。白銀がご褒美をくれるかもしれないぞ』


「こいつらに勝ったらご褒美……」

「え? あ、まあ……勝ったら……そうね、治療の一環ということで、ご褒美あげるわよ……」


『さあ、いくんだ。俺! やれるぞ! 俺はお前を信じてる』


「……わかったよ。俺、いくよ。俺もお前を信じる」

「信じるって……嘘なんて、つ、つかないって。その、あげるわよ、色々と、治ってから……ってのもあるけど」


 俺は白銀に向き直る。


「ここは俺に任せろ――ってなんでお前そんなに顔が赤いんだ。とりあえず俺は

あいつらを倒してみるから、負けたらあとは頼む」

「はあ? べ、べつに赤くないっ。ていうか、あんた、今、わたしと話してたんじゃないの!?」

「……? まあとにかくどっかに隠れてろ」

「う、うん……気を付けてね?」


 現金なもんで、白銀はたたたっと木の陰に隠れた。

 つうか、向こうのイケメン許嫁も隠れてるじゃねえか。

 俺らはホゲットモンスターじゃねえんだぞ。


「HAHAHA。ボウズ、シニタクナキャケツダシテカエリナ」

「女の前で恥、かきたくねーだろお? こいつに食われちまうぞお?」

「……うまそ」


 三者三様、

 国籍多様、

 みんな過剰なドーピングをしたかのような筋肉と浮き上がる血管。


 俺は腕を回し、手首をまわし、足首を回す。


「親父が言ってたぞ。天然ものが一番だってな。養殖はマズい。見せかけの筋肉じゃあ、本物には勝てない」


「「「あああああ!?」」」


 仲良くキレた三人が俺へと向かってきた――。

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