第15話 なにかが起こりそうだった

「なんか、わたしの扱い、雑じゃない?」


 などと、白銀雪見が言ってきたのは、放課後のことだった。


「はぁ? なに言ってんだよ。『ついてこい』っていうから、わざわざバイトの入りをずらしてもらってまで、ついてきてるだろ」


 それのどこが雑だというんだ。


 しかし、白銀は不満そうだった。


「仮にわたしがメインヒロインだとして」

「メインヒロイン……?」


 本格的にどうかしてしまったのだろうか。


「霜崎くんとのかかわりが少ないというか、他の女の登場が多いというか、わたしに割かれる時間が少ないというか?」

「バイトしてるだけだ」


 治療だって治療らしいことされてねーし。

『昼飯あーん』とか、まじでそういうことばかりだ。

 この前は急に手を握られて、『どう? ドキドキする?』ときたものだ。

 俺は確信したね。

 こいつは――少女漫画を参考にしてるんだ。それも純愛のやつ。


 もはや俺は、白銀雪見に『治療に関しては』期待していない。

 こいつは『体で返すから』と言っているが、絶対に体では返せないだろう。


 まあいい。

 助けてもらいたくて助けたわけではないし、この状況だって俺一人のせいなわけだ。

 こうして気にかけてもらえるだけ俺は幸せなのだろう。 


「で、今日はなんなんだよ。俺はどこに連れていかれるんだ」

「ちょっと、公園あたりまで」

「公園」


 また、少女漫画的な何かが発生するのか?


「ちょっと……会ってほしい人がいてね」


 なんだか歯切れの悪い解答に、嫌な予感がした。


「治療として、めちゃくちゃセクシーなお姉さんが半裸で出てくるとかじゃないよな」

「めちゃくちゃセクシーなお姉さんなら、ここにいるでしょ」

「半裸ではない」

「……じゃあ、脱ぐわよ」

「やっぱりなにかおかしいな?」


 白銀がなんだか静かである。

 あと本気で脱ぎ始めたので、止めたが……少女漫画的な展開になっていないので、今日はそういう日じゃないのか?


「なによ、半裸がいいんでしょ、なんで止めるのよ」

「バカ野郎。放課後、外で半裸になる同級生を、傍で見守る男子高校生なんて居てたまるか」


 白銀は頬を膨らませた。


「男ってほんとよくわからない」

「俺はお前がわからない……で、半裸のお姉さんが出てこないなら、誰が出てくるんだよ」


 そんな話をしていると、公園に到着してしまった。

 かなり広い市営公園だ。自然公園ともいえる。

 ただ、広いだけで、何かがあるわけでもない。

 遊具のエリアは一部だけ。

 散歩にはいいし、なんなら脱いでも見つからない場所ではあるが――。


 その時だった。

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