第14話 なんかからまれてるやつを救った
「うう……」
「いてえ……」
その他、もろもろ。
地面に倒れる男五人の姿は、なかなか衝撃的だった。
『ほらな、できたろ、兄弟』
なんていう、もう一人のオレの幻聴はそこで消え去った……。
いや、俺、大丈夫かな……? たしかに『下半身に脳があるタイプの男』とか、そういう最悪の評価名があるのは知っているが、本当に脳みそがあるパターンってある……?
「あ、あの、ありがと……」
ショートカットの金髪が周囲へと、ぎこちなく視線をめぐらせながら、俺に頭を小さく下げた。
「大丈夫か、それ」
俺は腹を指差した。
殴られていた。
「あ、ああ……うん、平気」
腹を擦りながら俺にうなずく姿は、ただの草食動物に見えた。
しかし俺は騙されないぞ。
こいつはライオン級の女だ。
優しいかも? なんて思ってついていくと、ホテルの中にめっちゃ怖い女子軍団がやってきて、『てめえ、うちの仲間になにしてんだ!?』とか言われて、クレカ奪われるんだ……。
「なんで、顔をひきつらせてアタシを見てんだよ、おにいさん……」
「おにいさん……て。お前と一つしか年、かわらねえよ」
「なんでわかるの」
「俺も同じ高校。で、うちはネクタイの色で学年がわかる。だろ?」
「あ、そうなんだ……先輩か」
「ああ。よろしくな――っていうか、他のやつも平気か」
俺は背後の二人を見た――ところ、パンツを下した男が、起き上がろうとしていたので、さっと近づいて、首をトンってした。
横の女子二人が顔をひきつらせている。
「こ、このひとなに……」
「トンッってするのって、映画じゃないの……? ほんとにトンッってしてる人はじめてみたよ……」
めっちゃ怖がってるじゃん……。
たしかに首をトンッってする人はいないとおもうけど、それでも怖がりすぎじゃん……。
俺は場を和ませた。
こういう時は爆笑よりも、親父ギャグを言ってひかせるくらいがちょうどいい。
下に見てくれて、バランスが良くなる。
「ほら、そこの子。はやくパンツをあげなさい。逆につかまっちまうぞ――なんなら、俺が手伝ってやろうか? あっはっは」
パンツをおろされた女の子は目をきつくつむって、震え始めた。
「お、おねが、し、します……だ、だから、首、トンってしないで……」
「しねえよっ!?」
「ひ、ひい……う、ううう……」
泣いちゃった……。
助けたはずの俺が、泣かしちゃった……?
周囲の目が、どんどん厳しくなってるよ。
「もういいから、早く、あげろ。パンツ……! な!」
「うう……」
「はやく、しなさい」
俺が、連行されちゃうから。
早く。
泣いてる女の横の、これまた金髪が直立不動で叫んだ。
「は、はいっス! 申し訳ないでっス! ――ほらっ! 殺される前に、うちがあげてあげるから、足開いて!」
で、友達のパンツを下から勢いよく上にあげた。
ロケット射出みたいに、パンツがあがっていき、なんか見えた気がしたが、俺は見ていない。
そして見えたとしても、なにも反応しない俺の頭は冷静である。
「先輩、お礼は今度するから……今日は勘弁してもらえないかな……」
背後から、脅されたような感じのショートカットの女の声。
俺はハリウッド映画に出てくるやべえやつなのか?
翻訳文みたいな提案されたぞ。
「お礼とかいいから。二度と、こういうことはするんじゃない」
ショートカットが体の前で腕を重ねる。
でかい胸が寄ると、第二ボタンまで空いたシャツの間から、白い肌が必要以上にあふれ出てきた。
「だって、絡まれたらどうすればいいんだよ……」
「まあ、そうだけどさ……」
たしかにそうだよなぁ。
……めんどくさいけど、仕方がないか。
「いつもこの辺であそんでるのか?」
「あ、はい。そうです」
「お前、名前は?」
「え? あたし? ――アスカ、だけど」
「じゃあ、アスカ。今度こういうことがあったら、俺に連絡してこい――スマホ、よこせ」
「……スマホ、どうするんですか」
「警戒するな。連絡先教えるだけだ」
「え? つまり、先輩が……えっと、先輩」
「霜崎っていう。霜崎明人」
「……アキト先輩があたしたちの、ケツ持ってくれるってことですか」
「言い方が、任侠チックだが、まあそういうことだ。なにかあったら呼べ。助けるから」
どうせバイトしかしてないし。
バイトの帰りにはこのあたり通るしな。
「あ、ありがとう……ございます」
はねっかえり美少女。
金髪ショートカットのアスカとやらは、なんだか実にしおらしく、俺へと頭を下げた。
「あ、あたしたちが先に食べられるんだ……」
「……大丈夫だよ……『うちをさきにお願いしまス』って、頼むから……」
俺は振り返る。
「食わねえっ! だって食えねえからな!」
「「ひいいいいい、なんで泣いてるのおおおお」」
と、泣きながら抱き着く二人に叫ぶのであった。
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