第13話 なんかからまれてるやつを救う

 どんな状況だろうと、人間は腹が減る。

 つまり稼がなきゃならない。


 高校生なので働く時間に制限はあるが、そうはいっても帰宅は夜の繁華街を抜けることとなる。


 ホテル街は帰宅への近道になるのだが、抜けるとき『まさかまたアイツが連れ込まれそうになってるなんてことはなかろうな』なんて思う。


 ……なかった。

 なんかやたらエロそうな雰囲気を出してるカップルしかおらんかった。


「っけ! ちくしょう! みんな幸せになっちまえっ!」


 俺は悪態をつきホテル街を駆け抜ける。

 自転車を使わず足を使って移動するスタイルは霜崎家の家訓である。


 ホテル街を抜けたあとだった。


「うるせえ! むこういけよっ」


 なんだか騒がしい。

 見ると、ペンギンがマスコットになっているディスカウントショップの前で、不良っぽいやつらがいさかいを起こしているらしい。


 少し気になるのは性別が違うもの同士のグループがいがみ合ってるということだ。

 男グループが5人に対し、女グループは3人ので、何だかちょっと、今後の展開がアレな感じでもある。


 普段なら関わることはないのだけど、なんつーか、下のオレが俺に、訴えかけている気がした。


『アキト、ええんか? ええのんか? お前はそこで正義を捨てるんか?』


 なぜエセ関西弁なのかはおいといて、言いたいことはよくわかる。


 足を止めて見ていた。

 周りの人間は見ないふり。

 男5人がイカツイ状況からして、仕方がない。

 交番は……遠いし、こねーだろうし。

 だってあれ、ナンパされてる延長線みたいなもんだろ。

 まあ……普通のナンパには見えねーけど。


 なにより、女グループのほうはこんな時間なのに制服姿で、ついでに同じ高校の女だ。

 たぶん1年だな。

 みんな金髪。

 

 で、叫んだのはスカートがかなり短いショートの金髪女みたいだ。

 遠目から見ても目鼻がくっきりとしていて、スタイルもよく、どっかの女優みたいだった。


 威勢の良さそうなショートの女が、また叫ぶ。


「あっちいけって言ってんだよ! ぶっ◯すぞ!」


 内面は女優どころか、おっさんみたいだった。


 すげえな……男たちの風貌を見る限り、本職のあっちの人じゃないにせよ、そこに限りなく近い何かであってもおかしくはない。


 そこにミニ肉食獣みたいな女が食いつかんばかりに反論してる。

 周りの女たちは、びびってそうながらも、リーダーっぽいショートがいるから、任せてる感じ。


「あ? てめえ、優しくしてりゃ調子のってんじゃねえぞ!? てめえが◯されろや!」


 もちろんだが、男たちがキレた。

 アダルトなビデオを非合法に作っていそうな20代男性たちが吠えているのだ。

 ますます周囲は避ける、助けない。


 姉ちゃんなら小指だけで5秒だろう。

 妹なら両手両足で18秒ってとこか。

 俺、多人数苦手なんだけど……。気が散るし、戦ってる間に、ミニスカートが近くにあると、気を取られるんだよ……。


 ずっと前なんて、元関取と戦わされたとき、ゆれる胸部になにかを刺激されて、グラビアの巨乳美女が頭から離れなくて、張り手をくらって死にかけたし。


 俺ってまじ可哀想。


『だまれ、いけ、アキト。お前は、いままでのお前ではないのだ』


 まじかよ、俺のオレ。

 なんでそこで、老師口調なんだよ。


 ほんとにほんとかよ。

 強そうだぞ、相手。


『イケル。イケないお前だが、やつらはイケル』


 笑えねえよ。


「でも……信じるからなぁ!?」


 あっちの機能は最悪だが、内面への助言は信じるからなぁ!?


 向こうも騒がしくなった。


「こっちこいや、てめえ! ひんむいて、売ってやる!」

「や、やめろよ! くっそ! ざけんなっ!」

「っけ。軽いケリなんざきかねーよ! おらっ!」

「あぐっうっ」


 女子高生の腹にめり込むグーパンチ。

 周囲の女子たちも叫んでるが、押さえつけられてるし、一人なんか見せしめにパンツ下ろされてるじゃん……スカートあるけど、ノーパン強制なんて犯罪じゃん……あんな状況下で本当に俺は気を散らさずに、戦えるのかよ……。


『イケル。あっちはイケないのにね!』


 2度目は笑えねえが……2度も言われたら信じてやるよ! 


「てめえら、ちょっとまったああああああ!」

「あ!? なんだてめっーーああっ!?」


 ショートの金髪をつかんでいる男へ、なんだかデジャブな飛び蹴りを食らわす。

 ふっとぶ男。

 なんか叫び声が、すこし可愛かった。ほんとはチワワか、こいつら。


 まあいい。

 俺は宣言した。


「てめえらの相手は俺だ!」


 ここに今、下半身と対話する高校生が現れたのであった!


 地面にぺたんとなったショートの金髪女が俺を見上げる。

 

 切なそうな顔でこう言った。


「え? だれ?」 


 デスヨネー。


 次回へと続くーーのか?

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