第12話 シモサキ家の日常
特徴はないが歴史だけはありそうな日本家屋である我が家。
壁で囲まれた部屋は少ないが、襖で仕切られた部屋はそれなりに多い。
貧乏よりだが、恵まれてはいる――そんな霜崎家である。
畳の上にしいた布団に寝っ転がっていると、妹が乱入してきた。
「お兄ちゃん。おねーちゃんからメール届いたよー、画像付きー」
「ああ? 今、やつはどこの国にいるんだ」
「うーん……アマゾンってかいてあるけど……大蛇に勝ったって。絞め殺したらしいね」
「あいかわらず意味不明な生命体だ……」
我が霜崎家で最強なのは父ではなく姉である。
痩身のくせに握力が半端なく、腕が細い癖にパンチ力が異常。
おそらく人間の形をした別のナニカである。それは父も認めている。
ゆえに人間の格闘技や競技なんぞに興味はなく、世界中を旅しては、強者――それも別の生命体とバトルしまくっているのである。
それが生きる意味らしい。
21歳の女のすることではない。
「おねーちゃんすごいよねえ。蛇も絞め殺されたんじゃ、立つ瀬がないね」
「蛇は立たないから、立つ瀬はもともとないけどな」
「わ。たしかに。這うもんねぇ」
ま、俺のあれも立たないけどね。
あっはっは!
……うえええええええええええええん。
「お兄ちゃん、なんで無言で泣いてるの」
「泣いてないやい……」
戦ってるんだい。
「お姉ちゃんのメッセージあるよ。えっとね『アキト、元気にしこってるか?』」
「クソ野郎だな!」
「あ、ごめんなさい。『アキト、元気にしているか?』だった。わたしの見間違い見間違い」
「妹よ……お兄ちゃんは心配です……」
「落ち着いて、お兄ちゃん?」
妹はそうして、俺の体をさっさと撫でる。
まるで犬になった気分だ。
我が家では俺が一番弱いので、まあ、そういうことなんだろうな……。
「お姉ちゃんのメールのつづきね」
「いやもういいよ……どうせ、また次のターゲットが書いてあったりするだけだろ……」
「でも、この大蛇、子供を食べたりしてたみたいなのに倒せなくて、原住民のひとから感謝されたってさ」
「ああ、そう……」
「それでお礼に、どんな年齢でも子を成すことのできる霊薬もらったって。うそっぽいねぇ」
「そこくわしく!?!?!?」
「きゃっ!? おにいちゃんどうしたの」
「早く! 先を読んでくれ、妹!」
「わ、わかったよ。えっと『現地でカレールーでカレーつくったら、めっちゃ喜ばれたって』。おわり」
「おわるなよおおおおおおお」
っくそ!
いつもはどうでもいいことばっかりなのに、今日のメールはすごい情報だ!
「妹! ぜひ! ぜひその薬を日本に送るように言うんだ!」
「え、なんで……お兄ちゃんが使うの……? ま、まさか」
「あ、いや……」
妹には当然、俺の下半身の話はしてない。
できるわけがない。
する兄がいたら、こっちこい。矯正してやる。
妹は、どこか嬉しそうに、しかし妖艶な感じもする笑みを浮かべた。
「お兄ちゃん、まだ、妹か弟ほしいのー? もう。お母さんとお父さんに直接頼めばいいのにー!」
「あ、うん、そうそう……ハハハ……親につかうの、親に……」
親に霊薬使う子供がいるわけないだろうが!
いたら連れてこい! 矯正してやるから!
とりあえず、姉にはメールを送っておいた。
届くかは不明だが……というか、税関で絶対にひっかかりそうだが……まあ、これに限らず、あの規格外の姉ならば、なにかすごいもんを見つけるかもしれない。
ちょっと依頼しておこう……。
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