第11話 黒池にばれる

「なあなあ、霜崎ぃ。この前の、あれ、なんだったんだよー」

「あー?」


 教室。昼休みだが、周囲には人がいない。


 俺はスマホで全国各地の神秘素材を調べていた。

 ひとたび口にすれば、子孫を幾人も残せるという伝説の蛇のエキスが今のところ濃厚なのだが、他の大陸に渡らないといけないっぽい。


 なお、病院には行ったんだよ、俺は。

 でも、めっちゃくちゃ美人の女医さんに足を組まれながら「いまは、むりかもねぇ? お姉さんにも、反応しないみたい、だし?」とか、現代医学の敗北を宣言されたのだ。


 つらいよぉ……。


「うう……」

「霜崎、『あー、うー』いってないで、おしえろよー。この前の、美少女はなんだったんだよー」

「ああ……あれは、なんつうか、治療というか、慈善というか……まあ、ガールフレンドってやつだ」

「え!? 彼女!? うっそだぁ。いるわけないじゃん」

「フレンド100のガールフレンドだよ」

「友達? うっそだぁ。いるわけないじゃん」

「友達ぐらいいるわっ」


 外のクラスだけど。

 つまりこのクラスには親しいやついないけど。


「治療ってなんの治療?」

「っち」

「舌打ち!? ひどっ!?」

「俺は今、調べ物をしてるんだよ」

「なにをさ」

「あっ」


 ギャル特有の親しみを出しながら自然としてくる『接近』には、気配がほとんど感じられなかった。

 俺のスマホはひょいっと手から奪われた。


「なになに……ふーん……ああ……え? まじ? 霜崎? まさか霜崎の霜崎が、あれなの?」

「……なんとでもいえ」


 俺は静かにスマホを取り返す。

 黒池はさきほどまでのバカにするような雰囲気を消し、いたわるような視線を向けてきた。


「ただでさえ難しい人生なのに、霜崎、さらにハードモードでかわいそう……」

「うるせえな?」


 ほっとけ。


「うちがパンツ見せてもダメなの……?」

「うちは、いっつもパンツ見せてるだろうが」


 見せずに座ってる日のほうが少ないだろうが。

 いつのまにかひざ掛けもなくなってるしよ。

 三日しかもたなかったじゃねーか。


 黒池が、うさんくさそうに俺を見た。


「なんで、うちのパンツのことそんなに詳しいの。見てないっていつも言ってたのに」

「~~~♪(口笛)」

「うっわ。むっつりだ。むっつり野郎だったんだ……!」

「見てはいない。見えているという状況を確認していただけだ。見ていたんじゃなくて、見ているだろう人間を観測して見えているのだと推測したんだ」

「早口、きもい……」

「お前、俺の心をえぐってばっかだな!?」


 なんなの。

 前世で俺に殺されでもしたの……?


「ふーん。それにしても、霜崎、そういう悩みがあるのかぁ?」

「なんだよ。黒池が治してくれるのかよ」

「うち、そんなに軽くないし」

「わかってるよ」

「三千円ならいいけど」

「わかってねえな!?」

「うそうそ」

「……ったく」

「八千円は欲しいな」

「いい加減にしろよ!?」


 ちょっと払いそうになったけど。

 どうせ払っても、俺のオレは反応しないだろうし、つまりこれは詐欺に近いのだろう。

 だまされないで、甘い言葉。詐欺は身近にあるものです。ってね。


「エンリョしなくていいのに。霜崎って案外、律義だね」


 ……だまされないぞ、絶対。


 

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