第4話 そうして俺はここに居るわけだ
コンビニやファミレスでバイトをしているときは時間を忘れられるから最高だった。
知り合いの伝手を頼って、ヘルプで色々なバイトもした。
けれども、街の中には欲望でいっぱいだった。
目の端に映る『欲望をかきたてる何か』を見るたびに、下半身の違和感に気が付くのだ。気が付かされるのだ。
「ああ、俺、死ぬまで治らなかったらどうしよう」
これはもういっそ、荒療治だろうか。
金ならある……そう、金ならあるのだ。
「未成年だということを隠し、そして金で夜の世界へ羽ばたけば……」
いや、よくないよな、そういうのは。
ルール無視、犯罪的だ。
それになにより、そこまでして治らなかったとなると、俺の心のほうが再起不能になる。
「あぁ……俺の青春……ひと夏のアバンチュール」
コンビニバイトのあと、ふらふらと街を歩き、ファーストフード店で時間を潰し、悩み、そのうえでぼうっとしていたら――なぜかホテル街を歩いていた。
悩みが、行動を制御しているようだ。
本来の俺なら、こんなところを歩いている男女を見るだけでドキドキバクバクしていただろうが、今は、被写体を探す写真家のように、実に冷静に物事を見ていた。
「――やめて!」
だから、だろうか。
遠くから聞こえた、そんな声に反応したのは。
「いいだろ! お前も、そういうの期待してここに居るんだろ!」
「ち、ちがう! いたっ! 手を放してよっ!」
運悪く誰も居ない裏路地。
ホテル街というきらびやかな場所にあってさえ、薄暗い脇道の先に、言いあう男女の姿を確認した。
男は小太りのサラリーマン。
女は……遠目からでは曖昧だが、若い気がする。制服などは着ていないが、学生だろう。
「こっちこい! 金ならやるから!」
「そういうことじゃない! まずは離して!」
「うるさい! だまってこっちこい!」
「きゃっ」
タイミングが悪く、周囲には誰もいない。
だが、それゆえに、俺の怒りは爆発していた。
「っくそが。俺がこんなに悩んでいるというのに、犯罪ギリギリのサラリーマンが、偉そうにしやがって……!」
完全に逆恨みである。
サラリーマンが悪いのは分かるが、俺が怒る理由でもない。
それでもだめだった。
「だれか! 助けてください!」
女性の声が聞こえた瞬間。
俺は走り出し、二人の元へと近づいた瞬間、ジャンプ――そして叫んだ。
「恥をしれやあああああああああああ!」
そうしてサラリーマンはふっとび、逃げた。
残された女性の正体を知った。
俺の下半身は不動だった――というわけである。
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