第3話 で、どうなったかといえば

 あと数日で夏休み――そんな日に俺は告白を決意した。


 今になって思うが、なんで終業式の日に決行しなかったのだろうか。

 きちんと場を設定して、実行すればよかった。


 つまり、失敗したときのことなんて考えてなかったのである


     *


 佐倉エリカちゃん。俺の――いや、俺すらも含めた互いの想い人……の予定。

 今日、俺は彼女に告白をするのだ。


 一緒に帰宅するといっても、週に1回程度だ。

 それ以外はクラスで話すこともあるが、過度に接触することはない。

 だから、夏休みまであと少しといった、その日。

 一緒に帰ることになった流れで『告白しないと!』と天啓がおりてきた。


 公園に立ち寄り、話をすることにした。

 俺たちはジュースを購入し、ベンチに座る。

 

 見晴らしの良い、丘の上の公園だ。

 しっかりと日陰の下を選んだし、高い場所にあるので風もある。

 ちゃんと配慮もできている俺の告白成功率は100%に違いない。


 俺はジュースに口をつけたあと、言った。

 心臓はばくばくである。


「ごめん、暑いのに、公園で話をしようなんて」

「え、別にへいきだよー? それに日陰のあるところ選んでくれたし、今日はそんなに暑くないしね?」


 小悪魔的天使のエリカちゃんの笑顔に、俺の脳内はしびれる。

 俺の行動なんて全部お見通しみたいだ。

 これってつまり、以心伝心ってこと……!


「エ、エリカちゃん!」

「なぁに?」

「お、俺と付き合ってください……! 命をかけて、あなたを守ります!」


 今日に至るまで、俺はグーグル検索で告白の言葉を調べまくってきた。

 調べすぎて、ネタがなくなり、最後の方はプロポーズ集まで見ていた。

 

 で、結論――シンプルが一番。

 

 それが一番、成功率が高いのだ……!

 いや、まあ、そんなこと考えなくても、俺とエリカちゃんは相思相愛。

 問題なんてないんだけど――。


「ありがとう……わたし、うれしい」

「お、俺もそう思う――」

「――でも、霜崎くんとは、お友達でいるのが一番面白くて、素敵だなってエリカは思うんだ? だから、これからも、お友達でいてね?」

「うんうん、俺もそう思う……? え?」

「じゃあ……エリカ、いくね? また、明日学校で……」

「あ、うん、学校で」


 去っていく背中がぼやけていく。

 あれ?

 俺、泣いてる……?


     *


 ふられた瞬間から、しばらくは、記憶が曖昧だった。


 翌日も学校に行けたのは、単純に『何かを確かめたかったから』だと思う。

 夢だと思いたかった。


 けれども、すべては現実。

 さらにいえば、エリカちゃんはどこか素っ気なく、俺以外の男と笑顔で笑っていた。


 放課後。俺のことを心配してファーストフード店に誘ってくれた悪友のタケシ。

 彼は俺の話を真面目な顔で聞いた後、異様なテンションで笑いはじめた。


「あっはっは! ばっかだなぁ! エリカちゃんは、皆のアイドルだって考えてないと、お前みたいな自爆者がでるんだ」

「で、でも、間接キスだってしたんだぞ……!」

「だからなんだ。クレープの味見したいって言われて、あーんって小さい口をこっちに開かれて、それでそこにクレープ差し込んだだけで、勘違いする奴が悪い」

「ちくしょう……あれ? 俺、そこまで詳しく伝えたっけ?」


 クレープの話はそもそも言っていない。


 タケシは黙り込んだ。


「……、……俺にだって傷の一つや二つはある」

「お、おまえもしかして、エリカちゃんに告白……」

「ふぉるしええええええええええええ」


 タケシは残りのポテトを口に全部ツッコむと、よくわからない叫び声をあげながら、店外へ飛び出した。


「ま、まさかあいつまでエリカちゃんに……?」


 なんてことだ。

 俺の……俺だけのエリカちゃんじゃなかったんだ……。


     *


 それから夏休みに入ると、俺は高熱を出した。

 タケシも微熱が出たらしいが、俺のはまじの高熱。


 妹が看病をしてくれた記憶はあるが、それ以外は覚えていない。


 ただ、大事なモノばかり壊れる夢を見た気がする。


 バリン。

 ガシャン。

 ガンガン。


 妹曰く「ずっと、うなされてたよぉ。『やめてくれぇ』って」らしい。


 熱は二日で解熱した。


 大事なものが壊れた夢は見たけれど、

 まあ、目覚めたときは、逆にすっきり爽快。

 体から悪いものが出たみたいだった。


 だから、異変に気が付いた時、俺は絶句した。

 

『元気出せよ』と、タケシが過激な画像を送りつけてきたときである。


「……お、俺のもう一人のオレの元気がでない……!?」


 うそだあああああああああああああああああああああああああ!


 その日から俺は、出家した僧侶のような無心さで、鬼のバイト連勤を決意したのだった。

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