第2話 まず、俺は告白を決意したわけで

 過去を思い出すことは傷口をえぐることと同意だが、「どうしてこうなった?」と自問する。


 その為には、まず、彼女のことを思い出さねばならない。


 四組の男子調べ、可愛い女子ランキング学年第4位――しかし俺にとっては断トツ一位だった彼女。


 佐倉エリカ(さくらえりか)ちゃん……。


     *


 学校からの帰り道で、俺とエリカちゃんは二人並んで歩いている。

 手にはさきほど俺が買ったクレープ。もちろん二人分だ。

 遠慮されたけどバイトの給料日だったのでおごったのである。

 なんてカッコイイ男なのだ、俺は。

 これは告白だって上手くいくに違いない。


 俺のたわいもない冗談に、エリカちゃんは元気よく、しかし上品に笑う。


 ツインテールがよく似合う女の子だ。

 背は低め、なのに色々とデカイ。

 愛嬌ありまくりのミニ大型犬といった感じの、矛盾した、小悪魔的美少女である……。


「えー、うそー! それほんとなのー?」

「ほんと、ほんと! そのあと、犬は戻ってきたけどね」

「絶対嘘じゃん! でもおもしろすぎっ」


 それなりにお金持ちの家の一人娘だという。

 我が実家は中流家庭ではあるが、俺が勉強して、金をためれば、対等な関係になれるだろう。


「このクレープあたりだった。おいしぃ」


 エリカちゃんが小さな口で、大きなクレープをほおばる。

 リスみたいでかわいい。

 唇についたクリームが、ピンク色の舌で、どこか妖艶にぬぐい取られた。


「へ、へえ?」


 俺はごくりと唾を飲みこむ。

 体がカッと熱くなる。

 具体的には下の方がムズムズとしてきて、なんというか、早く家に帰って、妄想したい感じになってきた。


 男子の青春とは、青い春なのである……。


「ねえねえ、そのクレープも味見させてー?」

「え? ちょ――あっ」


 エリカちゃんは、俺へと小さく口を開く。

 ま、まさか。

 俺に餌付けをしろと……。


 そのまさかだった。


「あやくー、ほーだい?」


 口を開いたまま、エリカちゃんは俺へと懇願する。


 ください、あなたの「たっぷり生クリームのせバナナクレープ」を、と。

 口の中に、あなたのそれを入れてください……と。

 あなたの唾液がついた食べかけでもいいので、ください……と。


「ど、どうぞ……」


 俺は震える手で、クレープを差し出し、エリカちゃんの口にドッキングさせた。


「はむ」


 ハムスターの太郎みたいな声をあげて、エリカちゃんはクレープにかみついた。

 はむはむ、と口を動かす。


「わ、これもおいしいね?」


 ね? と笑いながらも、口の端には生クリームがついている。

 指摘してあげると、「は、はずかしぃ」と指の背で、ぬぐいながら、顔を赤くして笑った。


「ずきゅーん」

「んー? どうしたのー?」

「あ、いや、なんでもないです」

「なんで敬語? うけるー!」


 こんなん、もう、カップルですやん。

 うち、ぜったいに、エリカちゃんの想い人ですやん。


 俺の中のエセ関西人が道頓堀にダイブしていた。


 心を打ちぬかれた。

 もう俺は決めた。


 ――夏休みに入る前。

 

 俺は、エリカちゃんに告白するぞ!

 

 そ、そして――最高の夏を過ごすのだ!

 

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