「恩は体で返すから」と言い寄る学年一の美少女は絶対に恩を返せない

斎藤ニコ・天道源

第1話 プロローグ

 俺の名前は『霜崎明人(しもさきあきと)』

 友達だっているし、夢だってあるし、バイトをしてるから貯金だってある。


 だが――彼女はいない。


 高校二年の夏休み前。

 色々とデビューすることを夢見て、俺は一大決心をした。


 告白だ。

 それも学年美少女ランキング(四組の男子調べ)第四位のクラスメイトの女子である。

とっても愛想がよく、みんなに人気。俺にだって笑 顔を振りまいてくれる。


 ていうか、なんなら俺にだけ優しくて、俺にだけ笑いかけてくれて、

 俺にだけ体を密着させるときもあったりして――これって、脈ありってことぉ!?


「告白ありがとう……でも、霜崎くんとは友達でいたいな?」

「え、あ、はい……」


 絶対にうまくいくと勘違いしていた俺は、見事に撃沈した。

 それどころか、その日から、彼女は俺以外の男に笑いかけるようになった……。


 俺ってまじピエロ役ってことぉ……。


 そのまま夏休みへGO。

 俺は初日から失恋性の高熱を出した。

 それから復活すると、バイトに明け暮れては、カップルを恨む日々を過ごした。


 バイト、バイト、バイト――始業式ギリギリまでそれは続いた。


 そんなときだった。


 俺はホテル街に連れ込まれそうになっている女の子と、おっさんを見かけた。

 無性にむかついた俺は、おっさんに跳び蹴り。


「恥をしれやああああああああああ!」


 ふっとんだおっさんは逃げ、残された女子は俺を見る。

 びびった。


 彼女は学年美少女ランキング(四組男子調べ)第一位の女子――白銀雪見(しろがねゆきみ)だったのだ。


 礼はいらぬ、と繰り返す俺へ、それでも彼女は食い下がり、何度も繰り返した。


「――お礼をさせてほしいんだけど。あなたが望むなら身体でも、いいから。借りは作りたくない」


 ひと夏のアバンチュール。

 助けたお礼に、俺にデビューをさせてくれるって?


 でもね、お嬢さん。


「それは無理だ」

「な、なんで? わたしに経験がなさそうっていいたいの――」

「違う!」


 俺は彼女の肩をがしっとつかみ、しっかりと目を見た。

 赤くなる彼女の頬。

 俺は言った。


「……俺の下半身に存在しているもう一人のオレは、今、使い物にならないんだ」

「……え?」


 ゆっくり下がった彼女の視線。

 そこには、胸元を開いた美少女を前にしても微動だにしない第二のオレがいた。


「な、なんていうか、ごめんなさい」

「いや、気にしないでください……」


 これは、変なキッカケから仲良く(?)なってしまった美少女と、

 青春を謳歌したいのに全く先に進めない男子高校生の、

 清廉潔白的、全年齢対応型ラブコメである。


 ……たぶん。


「ほんと、どうしてこうなっちまったんだ……」


 俺は今日にいたるまでの記憶を、丁寧に、丁寧に思い出していった……。

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