三章
第15話 妹が救うもの。
オレ達は、スタスタと病院の中へ歩いていくと、中心街の病院という事もあって広大な敷地と七階ほどの高層な作りをしている。純白に輝くその外壁塗装が眩しいほど。ここが病院なのか? と疑いたくなるほどに綺麗な造りをしていた。
病院のエントランスへ入ると、温もりがある白と優しげなベージュで基調されており、ところどころ丸みをもったデザインも散見され、心が安らぐ。
うむ、ここで通院する人が穏やかな気持ちで診察を受けられるようにしようという気遣いを感じられる。
だが、それも良いことばかりではないようで、待ち時間はかかるのか、受付前のソファーで多くの人が座っていた。一長一短なのだろうな、ここまで煌びやかな病院は。それに土曜って事も時間待ちに関係してそうだな。
そのため、先ほど入ったのだからソファーに座っているだろうと思い、ぶらぶらと周囲を回るも暁さんはいない。
「うっ……どこ行ったんだ?」辺りを見渡すも居ないのでトイレに行ったのだと高を括り、窓際の回転椅子に腰を下ろした。
横の神様は当然アドバイスをくれなかったが、『病院って独特の匂いするよね』とだけ呟き、売店のお菓子の方へと流れていった。
病院全体は、病気蔓延予防のため、消毒剤を散布しているのが要因だと思う。それ程までに、この空間は非自然的だ。さらに病棟へ進めばこの空間よりも更にその匂いで覆われるだろう。
杖を持った老人や右目を眼帯で覆う若者。車椅子で受付に向かう少女や意気消沈した青年など様々な人たちがそこに集まっていた。
その姿を何となくぼんやり見ていたら、神様がペットボトルの水を二人分買ってきた。
「ほらっ、水」
「……あっ、ありがとうございます」
どうやら、神様といえどここで匂いがする食べ物を飲食する事はできないようだ。オレは、二五〇ミリのペットボトルを受け取るも飲めないでいた。口の中は乾燥しているのに。オレは、ボディバッグに貰った水を詰めた。
「来ないね」
「……まだ、待ってみます」
「そ」ツマラなそうにそう呟き、売店売り場にまた行った。どうやら、お腹は空くようだ。
時計をチラチラと見て前を見るも、受付待ちの方も全員いなくなり、また新たな人たちがやってくる。
流石に、トイレでは無さそうだな。とすると、暁さん自身の診察ではないのか。
ようやく、オレは動き始める事にした。
となると、誰かの見舞いが濃厚か。
受付へ一直線に歩くと、オレが長々と滞在していたのが気になっていたのか、受付の人のマスクが上へ上がる。少し、警戒しているのだろう。
「どうされましたか?」ここは慎重にだ。面倒ごとは避けなければならない。
「見舞いに来たんですけど、本人がここに迎えにくると言ってたんですけど、なかなか来なくて参っていまして。どうすれば良いのかと」見舞いがどのような流れで進むのかそれを知る為に嘘をつく。
「そうでしたか。では、あちらの見舞い専用の受付に行ってください。二つ左のところです」そう言って、右手で誘導してくれるので、オレはその受付までいくと、早速それを聞いていた看護師が記録を出して記入をお願いしてくる。
用紙の一番手前に『暁朋恵 十二時四六分 暁大輔見舞いのため』と名前、時間、理由を書書かれているのを確認する。
……暁朋恵……暁大輔……。
雑に個人情報を出しており、少し不安になるもオレは、スマホを取り出して、今、メッセージが届いた風を装い、『あっ、今来るそうです。外で話したいそうなので……ありがとうございます』と躊躇わず自分の嘘を回収する。
それを言い終えて病院の外へと向かう。
『なんで? 病室とか探せば良いのに』
それは、できないです。
『へぇ〜倫理を優先するんだぁ〜。探偵物だったら、ズカズカ入っていくのに』
オレの横へひょこひょこ寄ってきてはそう告げる。
無作法に秘密を探るのは、墓荒らしみたいで違いますからね。
『あぁぁ〜、また待つ時間かぁ〜』
そうです。まぁ、売店でめぼしいのあったなら、買って上げますから許してください。
『マジっ? 神っ?』
はは。
愛想笑いをしつつ、二十分ほど待たせているので、売店の方へ向かうと、多種の商品が入っているケースを子供みたいにへばりついて眺めている。スカートを膝の裏で押さえ、床に落ちないようにして。
ほんと、人目を気にしない人だな。
「明智さん⁉︎」
聞き馴染みのあるトーンでオレ達が追っていた人物の声が聞こえるので振り向くと、やはり暁朋恵がそこに立っていた。
ハイウエストのスキニージーンズ。上は上品な黒のロンTを着ており、結構大人っぽい雰囲気を身に纏っており、見惚れてしまう。
隣に、空色で柔らかなストライプ柄の病衣姿で松葉杖をついて、ん、誰だ? って顔の超イケメン男を引き連れていた。彼の首元がキラッと光る。
「ごめんなさい、今は……えっ、
「あっ、こんにちは〜」そう言うなり、ヒラヒラと手を振っている。
「
「えっと、学校の友達で……って、また後日、お話しするから、今日はごめんなさい」そう言うとぺこりとお辞儀をしエレベーターのボタンを押すも、松葉杖をつく男は、その場に留まった。
「朋恵、友達なのだったら、そんな失礼な断り方はしてはいけないよ」松葉杖の男は、すんとした表情で暁さんを諭す。何処か達観したような物言いで、暁さんは『そうだね』と理解したように呟く。
「すみません、申し遅れました。朋恵の兄の
まさか、話が続くとは思っていなかった為、一瞬頭を巡らせ、有体な嘘を浮かべる。
「実は、此処の病院から処方される目薬じゃないとダメでして。まぁ、毎回診察にお金かかるのが難点なんですけど。あぁ〜横のは暇なんで付いてきたんです」
テキトーにストーリーを作ると、売店前にいた神様が近づいてきてオレのスニーカーの底を蹴る。
「はい。もう終わったのでどうしようかと、考えていまして」
「………もし、時間があるようだったら、私の個室に来て、学校でのお話を聞かせて貰いたいな」
「えっ、お兄ちゃん⁉︎」
その余りにも凄まじいパワーがオレの心をギューっと握る。
おっお兄ちゃんだとぉ‼︎ お兄ちゃんっ子なのか、暁さんはっ!
てか、よくよく考えると、妹だっ!
うわぁ〜、そう思うと、今までの少し子供っぽい言動とかが納得すぎる。
ヤバい、破壊力がっ!
目の前が鮮やかな赤に覆われた。
『うわっ………何この人』
「あっ、明智さん?」
「きっ、気にしないでください。鼻血とか週一で出るので」バッグからティッシュを取り出して抑える。
「おー同士よ」兄上も鼻血が漏れていたので、オレはティッシュを五、六枚ほど兄上の鼻を抑えると暁さんが上手く鼻の中へ詰めていく。手慣れた手つきだ。
「やっぱ、破壊力がヤバいですよね」
「そうだね。こんな可愛い妹が……お兄ちゃんって」
グフっとお互い鼻から血がまだ出てきそうなので、オレは自分と兄貴の分の鼻も抑える。
オレ達は意思疎通と同志を見つけ、語り合いながら二人を置いてエレベーターに乗り込む。
「高校生がお兄ちゃんっていうのが堪らんですね」
「おっ、その良さが分かるのかい、君ぃ!」
「えっと、はは。だから、言わないようにしてるのだけど、つい。ごめんなさい」
「そうなんだ……へへ」二人の女子はぎこちなく笑いながらその光景を見ていた。
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