第14話 ラットの檻の中。
かなり荷物が嵩んだので送ってもらうことに。送料が一万円を超えるとタダになったので結構嬉しいサービスだ。
すっかり、家具とインテリアを買うのに時間が経っていたので、オレ達は昼飯を食べようと店を探すのだが、神様が『うう〜んピンとくる店ないなぁ〜』と悩んでおり、オレが食べたい物とかお構いなしなので、オレ達は、デパートを抜け、近くの飲食店に向かう。
「えぇ〜っと、近くにあるの言いますね。寿司、カツ、ファミレス、焼肉、カフェ、牛丼……パン屋」スマホの地図アプリで近くの飲食店を並べる。
「んん〜、なんか良いのないかなぁ〜」
「いや、どれかピンとくるだろ」
神様は、歩きながらキョロキョロと辺りを見回すので、肩を竦める。
ほんと、自分勝手だな、そんな事を思い少し離れた所まで歩いていると。
「ねぇ、圭吾。もうそろそろ、本腰入れて謎を解かなきゃね」
今までの寝ぼけ眼を擦るような表情ではなく、鋭く目を光らせた探偵のような顔つきになっていた。
今までの神様といた時間が退屈だったような言い草で、探偵ゲームで死体が発見された時のプレイヤーのような愉快そうな雰囲気を纏っていた。
ひんやりとした涼風が首を掠めて熱の籠もった頭を落ち着かせる。無意識に苛立っていた。オレを無視し、自分の
わかっていた。
この人が興味を持つのはどのようにして駒が動き、盤上を駆け抜け、答えに辿り着くかという事。まるで金持ちの道楽でデスゲームを開催する元締めのような他人事で高みの見物をしているかのよう。
……二階堂があぁやって悲しい物語を作ったのもそうだ。刺激的で評価される作品を作る為に登場人物を冷徹に無関係のように扱った事で……オレはあのように心を揺さぶられ深く考えさせられた。
作品を作ると、人はその登場人物をまるで駒かのように扱う。であれば、神様も例外では無い、なんて分かりきっていたはずだ。
肺に空気を十分に取り入れて、それをゆっくりと掃き出してを繰り返す。自然に瞼を閉じて自分の気持ちを落ち着かせる。
変わらない。やる事は変わらない。オレは、早くこの物語にケリをつけて、平穏な未来を手にいれる。そう、それで良い。変わらない。やる事は変わらない。
視線を神様の方へ合わせると私服姿の暁さんがトコトコと病院外の出入り口から中へと入っていく。
なるほど、この為に外へか。タイミングが良過ぎる気もする。
「なぜ、暁さんが病院へ入っていくか教えてくれないんですよね?」
「勿論。観測者とはそういうものだからね」
ラットに迷路実験をやらせるようにラットには正解も不正解も何も教えてくれない。当たり前の事だ。
「教えてくれたラットは貴方の見えない答えを教えてくれるかも知れませんよ?」
「へへっ。それを観測者は求めていないのだよ」
「……そうですか」
ラットの実験で
もっと整理するとA+B=Cになると予測したのにDという答えが出てきた時、A+B+X=Dだったからか。と、考え、Xを排除するように条件を統制する必要があるのだ。
それは、側から見ればもっと条件を統制させてやらなかった事が原因のよくある実験者の間違いとも取れる。だが、裏を返せば都合がいい解釈をしているに他ならない。
本来の帰結には辿り着くべきだ、と思い込んでしまう。
だからこそ、ラットに答えを教えればその実験者が
だから、神様は何も答えず、ただただオレ達を観測する。
どういう結末を迎えるかを観測するだけだ。
「私がここに降りたのが君に影響を与える事はない。私はただ、結果を求めているのではないよ。その過程を観測するこそが重要。君の実験例を作って考えていた事は意味をなさない。ただ、答えを教える……其れだけは答えへの過程を壊すことになる。私は君たちに何も影響は与えない。なぜなら、私が観測を終えれば好き勝手にこの世界を再構築出来る神だから」
……、要するに、CやDという答えが出ようがラットが行動した軌跡こそが重要で、神様が作り上げたこの世界で何が起ころうとも構わないということ。
サイコロを振るように何度も実験するのではなく、どうやって転び、どんな
結果には興味がなく、過程の中に面白味として謎が有るだけで、終着点がどこに落ち着こうとどうでも良いということだ。
ただ、謎を作ったからには解いて欲しいし、それを用いてストーリーを面白おかしい展開にして欲しいという事。オレが想像していたよりも恐ろしいほどに冷徹で身勝手な思考といえる。
「観測を終えた後、世界の再構築をする……その後に世界は残るんですか?」
「………、それはこの謎を解いてからにしようか。ご褒美は優秀なラットにあげるよ」
「そうですか」
どんよりとした雲が世界を覆い、昨日までの青い空を飲み込んでいた。
一筋の光も許さないその雲がラットの檻の中のようにみえた。
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