第20話 約束
ハンターギルドを出た二人は賑わう夜の街を抜けて行く。時刻はまだ宵の口。商店などはほとんど閉まっているが、飲食店はまだまだ人も多く、店から漏れる明かりが大通りを照らし、活気に溢れていた。
スタスタと歩くラドルの後ろをレフィーリアが周りをキョロキョロと見回しながら付いて行く。
ラドルは急に方向を変えて灯りの点いた商店へ立ち寄った。そこは酒や嗜好品などを取り扱っている雑貨屋だった。
中に入ったラドルはすぐに店内の棚に並んだ酒瓶を手にとった。レフィーリアが後ろから覗き込む。
「何を買うの?」
手に持った二本の酒瓶をレフィーリアに見せる。
「シュラクスへの土産だ」
おーっと小さく声を上げたレフィーリアも他の棚に置いてある可愛らしいお菓子をいくつか手にとった。
「私もミオナ達に買って帰るわ」
ラドルは他にもツマミになりそうなナッツ類の袋も取り、レジに持って行く。カウンターの上に商品を置くと、レフィーリアに振り返る。
「お前も買うんだろ?早く置けよ」
「え?でもラドルがまだ……」
「一緒に払うから早くしろ」
レフィーリアも商品を置き、レジにいた中年の男が合計金額を伝える。ラドルが腰のポーチからお金を出そうとするのをレフィーリアがじいっと眺める。
「何だ?」
「いや、ミオナがラドルはお金に細かいって言ってたから、お金出してくれるの?って思って……」
「……そういう事はあまり外では言うな」
レジの男が苦笑いを抑えながら、商品を紙袋に詰めていった。紙袋を抱えて二人は再び夜の街を歩き始めた。
◇◇
カティス号まで戻って来た二人は船体の横まで来ると、当然のごとく船の入口は閉じられている。ラドルが船体の扉を叩くと、しばらくして中から男の声が聞こえる。
「ど、どちら様ですか?」
「ラドルだ。トリタか?」
「あ、ラドルさん?ちょ、ちょっと待ってください。すぐにあ、開けます」
しばらくすると、カティス号の扉が開く。中からいつものようにオドオドした様子でトリタが扉から覗き込む。
「すまんな、トリタ。ちょっと船室を借りたくてな」
「あ、そうなんですか。今、船長は出かけてて……」
「シュラクスはいないのか」
ラドルとレフィーリアがカティス号に入るとトリタは直ぐに扉を閉めて、僕はここで…と言って静かに機関室の方に向かって行った。二人はその後ろ姿を見送ると、通路を進む。
食堂近くまで来ると、女達の騒がしい声が通路まで聞こえてきた。
ラドルが食堂の入口から中を覗く。
「おわっ!ラドルっ?どったの?」
「あっ!ラドルだ!ビックリした!」
「にゃっ!?」
ミオナとエザリエ、ハティーラがテーブルの上にお菓子やら飲み物を広げて女子会の真っ最中だったようだ。エザリエの前には酒瓶が置かれ、顔も尖った耳の先まで赤くなっていた。ハティーラの顔も少し赤くなっていた。
「ちょーどアンタの話してたんだよ、ラドル!そんなトコに突っ立ってないで座れっ!」
エザリエが酔っ払い特有の絡み方をしてくる。ラドルが面倒臭そうに入口に立ったまま三人に尋ねる。
「シュラクスは出掛けてるんだって?」
「えっ?うん。そうだよ。船長に何か用事あった?」
「いや、船室で寝させてもらおうと思ったからひと声掛けようとしただけだ」
「あ、そうなんだ。別に勝手に使っても大丈夫だと思うよ」
「だぁぁー!だから座れっ!ラドル!」
ミオナが苦笑いを浮かべて、エザリエを横目に見ながら答えると、酔いが回って半目になっているエザリエが絶叫した。
隣に座っているハティーラがエザリエの頭を叩く。
「痛っ!」
「うるさいにゃ!」
「うー〜……、もっと年上を敬えよ~、ハティー」
顔を真っ赤にしたエザリエが頭を押さえてハティーラを上目遣いで見るが、ハティーラはそれに一瞥もくれずに目の前のグラスを口に運ぶ。そしてちらりとラドルに目を向ける。
「デクノボー。お前一人かにゃ?」
「いや」
「こ、こんばんは……」
ラドルの後ろからレフィーリアが恐る恐る食堂の中を覗き込む。その姿を見つけたミオナが声を上げる。
「おー!おかえりっ、レフィ!」
「あっ!レフィもいるじゃん!」
頭を押さえてテーブルに突っ伏しながらエザリエも声を上げた。
「レフィ〜、聞いてよ〜。ミオナもハティーもアタシのことを全然年上として扱わないんだよ〜」
「はは……、そんなに年上でしたっけ?」
「エザリエは私より十以上歳上だよね?」
「もうおばはんにゃ」
「あーー!ハティーがヒドいこと言ったぁ!」
酒乱とはこの事だったかと、ラドルは無言で溜息をついた。
レフィーリアはミオナに促されて、その隣の椅子に腰掛けた。食堂を立ち去ろうとするラドルにミオナが声を掛ける。
「そういえば、ラドル。今日、ギルドに行ったんでしょ?何かいいクエストあった?」
ラドルが立ち止まり、顔をレフィーリアの方に向けると、完全に目を泳がせていた。その二人の雰囲気を敏感に感じ取ったミオナ。
「ん?もしかして……」
レフィーリアの視線が更に泳ぐ。目が回るんじゃないかと思うぐらい視線をあちこちに移す。口を開いたのはエザリエ。
「ん〜?怪しいな〜。ハッ!もしかして二人でクエストなんか見ずに、いかがわしい……」
「してねえ!」
「お前は黙れにゃ!おばはん!」
再びハティーラがエザリエの頭を叩いた。エザリエが大袈裟にテーブルに突っ伏した。ミオナがテーブルに頬をつけるように隣のレフィーリアの顔を覗き込む。
「お主……。もしや……クエストを受けたな?」
ビクッとレフィーリアの体が跳ねた。
ああ、コイツはウソつくの下手だな……。
レフィーリアが肩をすぼめてミオナの顔をチラっと見る。ミオナが目を細めてその目を見返す。根負けしたレフィーリアが小さく頷いた。
「やっぱりか!抜け駆けしたなー、レフィー!」
「ご、ごめんなさい〜。で、でもそのクエストもさっき終わったの」
「そこは問題じゃないっ!」
首を絞められながらレフィーリアの体が派手に揺すられる。もちろん手に力は込められていないが……。
ミオナがレフィーリアの首に手をかけながら、キッとラドルに顔を向けた。
「ラドル!明日、三人でクエスト受けるよ!」
「えっ?何でだよ」
「抜け駆けしたレフィが悪いっ!」
「ふぇぇ……」
言い訳など挟む余地もなく、ミオナがゴリ押しする。
「しかしロンザリドに着いてすぐに二日連続でとか……」
「……むむ、じゃあラドル!私の分の報酬は要らない。これならどう?」
「なに!?」
完全にラドルの心が揺さぶられた。今日受けたクエストの報酬はかなり高かった。キビウにいた頃にはほとんど無かった高報酬のクエストがこのロンザリドには確かに多かった。
ひと呼吸おいてラドルが答える。
「分かった。前向きに検討しよう」
「よしっ!言ったよ!約束だよっ!明日だからねっ。レフィもだよ」
「いいの?私、抜け駆けしたけど……」
「許すっ!だから明日は二人でラドルが満足するクエストを探すよ!」
「うん。分かった」
そのやり取りを目を瞑って静かに頷きながら聞いていたハティーラが、再び食堂から立ち去ろうとするラドルを呼び止める。
「おい、デクノボー」
「今度は何だ?ハティーラ
「部屋に行くんなら、コイツを自分の部屋に放り込んどけにゃ」
ハティーラが顎で、テーブルに突っ伏して寝息を立てるエザリエを指した。はぁと溜息をついたラドルが手に持った紙袋をテーブルの上に置き、エザリエの服の首後ろを掴む。
そのまま猫を連れて行くように持ち上げて、食堂を出て行く。
出てすぐにまた食堂に顔を覗かせた。
「
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