第18話 コンビネーション
バレルガンを構えたまま、ラドルが右に走り出し、キングスコーピオの側面に回り込む。
キングスコーピオはその動きに一瞬体が反応するが、すぐに正面のレフィーリアを見据えた。
「レフィーリア!奴の尻尾に気をつけろ!」
ラドルが叫びながらバレルガンを撃ち込んだ。弾丸は正確にキングスコーピオの左側の外皮と外皮の間の節に吸い込まれ、撃たれたキングスコーピオの巨体が反応する。
キングスコーピオは狙いをレフィーリアをつけ、残った左の鋏をレフィーリアに振り下ろす。巨体に似合わない凄まじい速度で振り下ろされた鋏をレフィーリアはひらりと躱し、体を反転させながら地面に突き刺さった鋏めがけて大剣を振る。が、金属音が響いて弾かれた。
次の一撃を振る為にレフィーリアが大剣を引いた瞬間、レフィーリアの視界の端に何かが飛び込んできた。その何かに反応したレフィーリアは思いっ切り後ろに跳んだ。
レフィーリアがさっきまでいたその場所に、キングスコーピオの大きく反り返った尻尾の尖端が地面に突き刺さった。
パァンッ!パァンッ!
キングスコーピオの体がビクンと跳ね上がり、体の向きを変えた。尻尾をレフィーリアに打ち込んだことでさらけ出された腹部にラドルが弾丸を撃ち込んだからだ。
ギギギと奇怪なうめき声を上げて、体の向きをラドルの方に向ける。
「レフィーリア!尻尾を斬れ!出来るだろ?」
キングスコーピオ越しにラドルと目が合ったレフィーリアが、驚いた表情を見せた後、その整った口元の口角をにいっと上げた。
「当然よっ!」
更に身体強化魔法のレベルを上げたレフィーリアが地面を蹴った。跳んだ勢いで大剣を振る。しかし硬い尻尾の外皮がその一撃を弾く。が、そのままキングスコーピオの背中に乗ったレフィーリアがその背中にしがみつく。
ラドルは発砲しながら、距離を離す。そしてキングスコーピオの背中に乗ったレフィーリアに叫ぶ。
「しっかり
「分かってるわよっ!」
レフィーリアがもう一度、地面から引き抜かれた尻尾に向けて大剣を振る。今度の一撃は太い尻尾の外皮を避けて、狙い通り関節に斬り込んだ。キングスコーピオの尻尾の尖端が宙に飛んだ。
尻尾を斬り落とされたキングスコーピオの咆哮が響いた。そしてレフィーリアを落とそうとその巨体を振り回す。
レフィーリアは振り落とされる前に二、三歩の助走をつけてキングスコーピオの前方に向かって跳び、空中で一回転してふわりと地面に着地した。
片側の鋏と尻尾を切り落とされたキングスコーピオは唸り声のような奇声を上げると、残った鋏を地面に突き立てた。
ラドルはその動きを見て、キングスコーピオに向かって駆け出し、叫んだ。
「逃がすな!レフィーリア!仕留めるぞ!」
キングスコーピオの思考が戦闘から逃亡に切り替わったと感じ取ったラドルが勝負を決めに出た。その声に反応したレフィーリアが凄まじい速度でキングスコーピオに迫り、地面に突き立てた鋏を横薙ぎに斬り払う。
ガキィンッ!
金属音を響かせて、レフィーリアは大剣を振り切った。大剣は鋏の硬い外皮ごと切り裂き、キングスコーピオは両鋏を失い、地面に潜る術を奪われた。
残された四対の脚をばたつかせ、キングスコーピオがレフィーリアから距離を取るように後退る。
レフィーリアと後退るキングスコーピオの間にラドルが体を滑り込ませ、片膝をついたままバレルガンでキングスコーピオの頭部を乱射した。
「逃がすなよ!レフィーリア!」
「ええ!」
力強く地面を蹴って、レフィーリアがラドルの体を飛び越え、キングスコーピオの背中に飛び乗った。その巨体を更に揺らすが、体勢を崩す前に大剣をその背中に突き立てる!一際大きな咆哮が聞こえた。
ラドルはバレルガンの弾倉の弾丸を素早く入れ換えて、動きの鈍ったキングスコーピオの頭部を狙う。
ドォァンッ!
重い銃声が響き、その弾丸がキングスコーピオの頭部から胴体の中にめり込んでいった。
ぼんっという音がしてキングスコーピオの巨体が揺れる。撃ち込んだ炸裂弾が胴体内部で爆発した音だった。
キングスコーピオの体から力が抜け落ち、その場に崩れ落ちた。背中に乗ったレフィーリアの鼻に微かな燃焼臭がして足元の胴体から白い煙が上がった。
大剣をキングスコーピオから引き抜き、ふわりと地面に飛び降りたレフィーリアがラドルを見る。ラドルはバレルガンを構えたままキングスコーピオに近付き、その頭部を覗き込んだ。
そしてレフィーリアの方に振り返る。
「討伐完了だ」
二人は遠くに見えるヨラフが乗る小型砂漠船に向かって手を振ると、瞬く間にその船は二人の元までやって来た。
船から降りたヨラフが顔を紅潮させて討伐したばかりのキングスコーピオに近付く。
「マジか、アンタら!スゲーな!本当に二人だけで討伐しちまうとは」
ヨラフがラドルとレフィーリアに賛辞の声を上げる。ラドルがバレルガンをケースに仕舞い、レフィーリアも長剣を腰に下げると、ヨラフがラドルの肩を力強く叩く。
「二人だけで討伐するなんて、何考えてんだと思ったが、いやいや……。すまねえ」
「謝ることじゃないだろう。それで、コイツの討伐証明はどうしたらいい?」
「ああ。それなら俺が今日中にギルドに報告しといてやるよ。そいつの鋏の一つでも持って行けば問題ねえ」
そう言いながらヨラフは地面に突き刺さったままの鋏を持ち上げると、船の中に投げ込んだ。
「ささ、二人とも!乗ってくんな。この時間なら日が暮れる前に街に帰れるぜ」
ラドルとレフィーリアは顔を見合わせ、肩を竦めると船に乗り込んだ。
地平線近くまで落ちた夕陽に照らされ、砂漠の風に髪をなびかせたレフィーリアが斜め後ろの席に座るラドルに向かって振り返る。
「ねえ。さっきの戦闘はどうだった?」
「どうだったって?」
「私の戦い方よ!立ち回りとかどうだったって聞いてるの!」
「あー……。ま、あんなもんじゃないか?」
唇を尖らせたレフィーリアがジト目でラドルを見る。
「あんなもんって……」
「攻撃が雑なんだよ。今までその剣の威力に頼っていたのがモロ分かりだ」
「うっ……」
「なまじ威力がある武器を持つと攻撃が雑になるのはよくある話だ。特にお前の剣は魔力の刃だから刃毀れすることなど無いんだろ?だからだろうな」
図星を付かれたレフィーリアは口をへの字に曲げて目を逸らす。
……子供かっ!まあ……。
「身体強化魔法の使い方は流石だな。しっかりと自分の動きが出来ていた」
分かりやすくレフィーリアの顔が、輝くような笑顔になる。そしてドヤ顔をラドルに向けた。
「貴方もなかなか良かったわよ、ラドル」
フッと鼻で笑ったラドルが船の外に視線を向けた。
操舵室から顔を覗かせ、ヨラフが二人に声を掛ける。
「もうじきロンザリドの街ですよ、ご両人!」
「……その呼び方はやめてくれ」
ラドルが船の前方に目をやると、わずかに霞んだロンザリドの町並みが見えてきた。
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