第17話 キングスコーピオ討伐クエスト

 ラドルとレフィーリアの二人はキングスコーピオ討伐のクエストを無事に受注し、ギルドから指定された砂漠船の停船場に向かっていた。

 ロンザリド東側の主要航路上に現れたというキングスコーピオの出現場所は小型砂漠船で二時間ほどの距離だということだった。


 ラドルとレフィーリアの二人だけのパーティーはギルドを出たあと、携帯食を買い足してギルドが用意した小型砂漠船で討伐に向かうことになった。

 通常のクエストであれば移動手段はハンター達自身で用意しなければならないが、今回は依頼主の商人組合が早期の討伐を希望しているので、移動手段を用意してくれているとのことだった。


 街の北東地区にある停船場で、ラドル達はすぐにその小型砂漠船を見つけ、その船頭に声をかける。


「ギルドでクエストを受注したら、その船で行くように言われて来たんだが?」

「おー。キングスコーピオ討伐だな」

「ああ。そうだ」


 中年の船頭が船の上から顔を覗かせ、下へ降り立つ。中年だが、よく日焼けしたハンターのように逞しい体つきの男がにっかりと歯を見せながらラドルに近付く。

 ラドルがその男にクエスト受注書を見せると、


「よし!すぐに出発して大丈夫かい?」

「ああ。準備は出来ている」

「じゃあ、乗り込んでくれ。……って二人だけかい?」

「そうだ」

「まあいいか。とりあえず乗ってくんな」


 屋根のついたボートのような小型砂漠船は定員は十人くらいだろう。船頭は船の後部にある小さな操舵室に入り、その前に並んだ椅子にラドルとレフィーリアは荷物を置いて腰かけた。


「目的地まで二時間ぐらいだ。俺はヨラフだ。よろしくな」


 ラドルとレフィーリアも挨拶をすると、船頭ヨラフは手際よく船の機関を動かし、船は軽い振動と共に前へと進む。ヨラフは巧みに舵を操り、船は停船場の出口へと走り出した。


 ◇◇


 小型砂漠船はロンザリドを出て、東に向かって走って行く。カティス号が通ってきた航路よりも少し北側にある航路で、砂漠地帯の一番北にある航路となっている。

 船の左側には草原地帯と森林地帯、更に向こうには山脈が見える。

 草原地帯との境目に近い所を船は走って行った。


 ロンザリドを出て、約二時間。船が少し速度を落とした。主要航路であるのにキングスコーピオが出た影響のせいか、ここまですれ違う他の砂漠船はほとんどなかった。

 船頭ヨラフは前の席に座る二人に声をかける。


「お二人さん。悪いが船で来れるのはこの辺までだ」

「ありがとうございます」

「ああ、分かった」


 船は徐々に速度を落とし、完全に停止するとラドルとレフィーリアが砂漠へと降り立った。

 ヨラフは再び船の機関を動かし出すと、


「じゃあ、俺は二人が見えるギリギリの所で待機してるから、何かあったら呼んでくれ」

「分かった。よろしく頼む」


 ラドルとレフィーリアは離れて行く船を確認すると、砂漠を歩き出した。

 ラドルは既に手にバレルガンを持ち、周囲を警戒しながら歩いていく。

 その数メートル先を、陽射しを避けるフードを頭に被ったレフィーリアが歩く。長剣はまだ腰から下げられている。


 二人がしばらく歩くと、レフィーリアが辺りを見回しだした。


「ラドル。これは船の残骸かしら?」

「そのようだな。今回のスコーピオがやったものかどうかまでは分からんが……」


 レフィーリアが歩く少し先に、朽ちた木や破れた布が砂漠の砂にまみれて散乱していた。

 散乱した残骸の中に立った二人が周辺を警戒する。


 ラドルは先ほどから足に伝わる不自然な振動を感じていた。


 ……キングスコーピオは地中を移動する。もしこの振動がそうなら、なかなか大物だな……。


 ラドルがレフィーリアに無言のまま、親指で移動を促す。頷いたレフィーリアがラドルが親指で指した方へと歩き出す。


「レフィーリア。身体強化魔法で耳は強化できるか?」

「ええ。出来るわ」

「なら今すぐかけておけ。恐らくスコーピオはもう近くまで来て、俺達の存在に気付いている」


 一瞬驚いた顔をしたレフィーリアだったが、すぐに自身に身体強化魔法をかけて、周りの索敵に集中する。ラドルも自分の周囲に向けて小刻みに視線を振り分ける。

 ラドルの足が地面の振動を感じ取り、小さく呟く。


「お出ましのようだ」


 二人の間の地面が急激に盛り上がり、二本の剣のような突起物が飛び出した。ラドルは転がりながらそれを避け、レフィーリアはフードを放り投げながら大きく前方へと跳んだ。


 鋏による初撃を躱されたキングスコーピオが、砂埃を巻き上げながらその姿を現した。その鋏にはレフィーリアのフードが絡み付いている。

 地面を転がったラドルは素早く態勢を整え、一旦距離を取るため後ろに大きく下がる。レフィーリアも着地と同時に腰の剣を抜き、変形機構ギミックを起動させて大剣を構えた。


「はっ!こりゃかなりの大物だ」


 ラドルが全身を地面の上に出したキングスコーピオを見て思わず声を上げる。キングスコーピオのその巨体はラドル達がここまで乗ってきたヨラフの小型砂漠船よりも大きく、巨大な左右の鋏はラドルの身長よりも大きかった。


 キングスコーピオを挟み込む形になった二人に対して、キングスコーピオは四対の脚を小刻みに動かして体の向きを変える。その双眼がレフィーリアを捉える。


 …マズい!レフィーリアの方に行かれる!


 ラドルがそう考えた瞬間、キングスコーピオが振り上げた鋏をレフィーリアに向けて振り下ろす。


 キィンッ!


 甲高い金属音がしてスコーピオの鋏が地面に突き刺さった。レフィーリアが大剣で鋏を側面から弾き、振り下ろしの軌道を変えたのだ。

 レフィーリアは更に大剣を振って、連続で斬りかかる。スコーピオは引き抜いた鋏で再びレフィーリアを狙う。

 それを跳んで躱したレフィーリアはスコーピオの体の上に乗り、スコーピオの背中から数回切り込む。切り込む度に金属音が響いた。そしてもう一度跳び上がって反対側にいるラドルの前に着地した。

 着地したレフィーリアが低い姿勢のまま、スコーピオから目線を外さずに声を上げる。


「思ったより硬いわ」

「闇雲に斬りかかるな。俺が隙を作るから奴の関節を狙え」


 ラドルがレフィーリアの頭越しに数発撃ち込む。その弾丸は硬そうな外皮ではなく、鋏の関節部分に吸い込まれていった。

 怯んだキングスコーピオが後退る。


「よしっ!回り込め!」


 ラドルとレフィーリアが左右に散って走り出す。ラドルは走りながらバレルガンに弾丸を充塡して、キングスコーピオを狙う。


 パァンッ!パァンッ!


 放たれた弾丸が右の鋏の関節部分に吸い込まれ、鋏から力が抜けた。レフィーリアがその右から回り込み、大剣を振るった。


 バギィ!


 鈍い音が響き、キングスコーピオの巨体が後ろに下がった。キングスコーピオの鋏がドスンという重い音を立てて、地面に落ちる。


 片腕を失ったキングスコーピオがレフィーリアを睨み、その視線を受けたレフィーリアが、大剣をくるりと回転させて構えた。


「次で仕留めるわよ!」


 その高らかな宣言を聞いたラドルはニヤリと笑い、バレルガンの銃口をキングスコーピオに向けた。


「生意気な新米ルーキーだ」

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