第16話 ハンターギルド
ラドルとレフィーリアはシュラクスが書いた雑多な地図を頼りにハンターギルドへ向かって行く。
一目見るとかなりテキトーな地図のようではあったが、所々に目印になる建物やお店の名前も書いてあったので、二人は迷う事なくハンターギルドに到着することが出来た。
他の街のハンターギルドよりもかなり大きな建物に驚きながら二人はその門をくぐった。
ギルドの中には一番奥にカウンターがあり、その向こう側に七、八人ほど揃いの制服を着た職員達が、ハンター達の対応をしていた。
まだ朝の時間帯なので、出発前のハンター達がカウンター前に列を作っていた。
そのカウンターの左側は大きなレストランホールになっており、テーブルや椅子が並べられ、そちらにもハンターのパーティー達が出発前のミーティングを行っているようだった。
更に奥には別のカウンターがあり、その両側に少し湾曲した階段が二階、三階へと続いていた。
その階段を見ながら、レフィーリアがラドルに尋ねる。
「ラドル。あの階段の上は何なの?」
「ああ、ここのハンターギルドには宿もあるらしい。上は宿の部屋で、下のカウンターはたぶんその宿屋の受付だろう」
「へー、そうなのね」
ラドルはそう答えると、ハンター達が列を作っている所の隣に歩いて行き、カウンターの前へと辿り着く。そこには新規登録と書かれていて、そこにはハンターの列はなかった。一人の女性職員がラドルに気付くと笑顔で声をかけてくる。
「おはようございます。ハンター登録ですか?」
「いや、登録はしているんだが、この街は初めてでね。クエストはあっちのクエストボードから選んでここに持って来ればいいのか?」
「そうですね。まだクエストはお選びではないんですね」
「ああ」
「でしたら、ボードからクエストを選んで頂いてから、隣の列で受注受付となりますので」
「なるほど、分かった。ありがとう」
「良ければ先にこちらでハンタータグの確認だけ致しましょうか?そうすれば受注手続きがスムーズにいきますので」
「そうだな。じゃあ頼む」
ラドルが首元からハンタータグを取り出す。隣の列に並ぶ他のハンター達が何気にこちらに目を向ける視線を感じたが、ラドルは気にせずに女性職員にタグを見せる。
周りのハンターから驚きと緊張の空気が伝わってくる。ラドルのハンタータグが第三等級という高位ランクだったからだ。
ざわめきが他の列にも伝わり、並んだハンター達の多くが好奇の目をラドルに向ける。その中にはラドルの隣にいるレフィーリアの美貌の方に目を奪われている者も多少含んでいるが。
190を越える大柄で、何が入っているのか分からない革のケースを背負った、迷彩柄の胸当てと手甲を着けた第三等級ハンター、ラドルと煌びやかな長剣を腰に携え、腰まである長い黒髪を揺らした美少女レフィーリアは、この時点でかなりギルド内の注目を集めていた。
ハンタータグの確認を終えた二人はカウンターを離れ、クエストが張り出されているボードの前へと向かった。
そこには以前ラドルが活動していたキビウとは比にならないほどの数のクエスト、つまり狩猟依頼が張り出されていた。
他のハンターもチラホラとボードを見ている横で、ラドルは顎に手をあてながら一つ一つのクエストをじっくりと吟味していく。レフィーリアも同じようにクエストボードを食い入るように眺める。
報酬額はもちろんだが、その危険度や出現地までの距離なども考えながらラドルはゆっくりと見ていく。
するとレフィーリアが一枚の依頼書を剥がし、ラドルの前に持ってくる。
「ねえ!ラドル。これ見て。報酬が上がっているみたいよ」
レフィーリアが持ってきた依頼書に目を落とす。そこには緊急案件と赤文字で書かれ、元の報酬額が横線で消されて、さらに上乗せされた報酬額が赤文字で書かれていた。
「キングスコーピオか……。かなり報酬額が上がっているな。何故、緊急になっているのか気になるが」
「そうね。ちょっと聞いてみましょう」
クエストボードの横にはクエスト内容の詳細を答える為の男の職員が一人、ファイルを持って控えていた。ラドルとレフィーリアはその職員の所に依頼書を持っていく。
「すまないが、このクエストは何故緊急で報酬額が上がっているんだ?」
職員はその依頼書を受け取ると、にこやかな表情を二人に向ける。
「こちらの案件のキングスコーピオですが、砂漠の主要航路上で出現しておりまして……。三日前に討伐依頼が出されたのですが、まだ一組も受けていただけなくて……。昨日も定期船が襲われて、報酬額が上がったという次第でございます」
「これほどのハンターの数がいて、誰もこのクエストを受けてない?」
「はい……。来週から始まるフェスティバルの影響もあると思われますが、五等級以上のハンターの方が今、非常に少なくて……」
そういえば今活動しているハンターのほとんどが七等級以下というのを聞いたことがあった。大型モンスターの数が減り、なかなかハンターとしての実績が作れないことが原因と言われていた。
「フェスティバル……。人が多く集まるからか」
「左様でございます。高位ハンターの方々は人が多く集まる場所を避けますから……」
男性職員は困った顔をラドルの方に向ける。ラドルは細かく頷きながら、隣にいるレフィーリアを見ると、彼女は既にこの依頼を受ける気のようだ。その様子を見た男性職員が続ける。
「こちらのクエストは六等級以上のハンターが受注可能となっておりますが……」
「私が十等級で、彼が三等級の二人パーティーなのですが……」
「そうでしたか。パーティーで一人までなら条件を満たしてなくても参加可能ですよ」
「でしたら私達は受注可能ということですね?」
「はい。問題ございません」
レフィーリアは輝くような笑顔になり、男性職員から依頼書を返してもらうと、ラドルの手を取りクエストの受付カウンターの方に歩き出す。
「ちょ、ちょっと待て。俺は受けるとは言ってないぞ」
「緊急案件なのよ。早くしないと」
「いいのか?ミオナに抜け駆けするなって言われてただろ?」
レフィーリアの歩みがピタッと止まった。くるりとラドルの方に振り返ると、
「後で一緒に言い訳を考えなさい」
はぁーと、溜息をついたラドルがレフィーリアに手を引かれ、二人は受付カウンターに並んでいった。
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