第15話 大都市ロンザリド
ラドルとシュラクスが同時にグラスの酒を呷り、ラドルがふぅと一息吐き出した。
「なるほどな……。アジェイール商会の大幹部ね。どうやってそんな人間と知り合いになった上に、船まで造ってもらったんだ?仕事内容より気になるんだが……」
「まあ、知り合ったのはたまたまだ。船に関しては……、まだちょっと話せねえな」
「まあ、構わないが……。それで仕事内容は分からないんだよな?」
シュラクスが肩を竦めながら更にグラスを口に運ぶ。
「ああ。その詳しい内容を聞くために俺達はロンザリドに向かってるんだよ」
「ふーむ」
「それで、その仕事をこなすのには腕利きを用意した方がいいと言ってきてるんだよ」
「腕利きが要るってことは何か荒事ってことだよな?」
「まあただの狩猟とかではないだろうな」
シュラクスが椅子にのけ反った。ラドルはツマミに用意されていた皿に乗ったナッツに手を伸ばす。
「それで、ラドル。俺はロンザリドに着いたらまずその人の所に行って仕事内容を聞いて来る。その上でお前に正式に依頼したいんだが構わないか?」
「ああ。分かった。それまで俺はロンザリドで狩猟でも探して時間を潰すよ」
シュラクスが眉を上げ、
「そういえばミオナとレフィーリアと一緒に狩猟に行くって約束したんだって?」
「まあ、条件のいいヤツがあればな」
「ふっ、いいじゃねえか。俺が言うのも何だがミオナはいいハンターだぜ?ちょっと組む相手を選ぶのが玉にキズだが、アイツが自分から誰かと組みたいって言ったのは久々に聞いたぜ」
「そうなのか。そんな風には見えないがな」
「まあ馴れ馴れしいからな。だけど意外と頑固でな」
「なるほど……。覚えておこう」
二人はそれから夜遅くまで酒を酌み交わし、ラドルはほどほどに酔いが回ったところで自分の船室へ戻って行った。
◇◇
大都市ロンザリド。
大陸の西部に位置しており、南側から東側は砂漠地帯になっており、街の西側は海に面している。その西側の海の向こうには大陸の半島が見えており、その半島と大陸の間にある西側の海は穏やかな海として有名だった。
街の北側には草原地帯が広がり、更に北には東西に山脈が連なっている。またその山脈を分断するように南北に繋がる大街道が走っており、ロンザリドは海、山、砂漠の交易ラインを持つ唯一の都市として栄えていた。
カティス号は街の東側にある都市部から少し離れた停船場へと到着した。
停船後、すぐに街の係の人間がカティス号に近付いて来て、シュラクスがその対応の為に船の外に降りて行った。
その間、ラドルは船室で自分の荷物をまとめ、下船の準備を整える。
そして下にいるシュラクスから声がかかり、船にいた全員が順に船の外に降り立った。
係の人間から身分証の提示を求められ、ラドルはハンタータグを見せ、証明書を受け取る。
これは停船している間、カティス号の乗組員だという証明書となる。これが無ければこの停船場には街からは入れない。
全員がその証明書を受け取ったのを確認してシュラクスが皆に声をかける。
「その証明書は失くすなよ。それと、他の船には近付くなよ。船上荒らしと間違えられて捕まるからな」
停船の手続きを終えたシュラクスがラドルの元に近付く。
「じゃあ、しばしの別れだな」
「そうだな」
ラドルはシュラクスと握手を交わし、停船場の出口へと歩き出す。レフィーリアもシュラクスに挨拶をした後で、ラドルの後ろに小走りで付いて行く。
ミオナもそろりと付いて行こうとしたが、シュラクスが声を出した。
「ミオナ!お前はまだだろ!先にナイアドに行くんだろ」
「えーっ!やっぱり行かないと駄目〜?」
「駄目だ。それぐらいの筋は通さねえと俺の顔が立たねえって言っただろ?」
むうっと唇を尖らせたミオナがラドルとレフィーリアの方に振り返ると、
「ラドル!レフィ!私が行くまでクエスト受けたら駄目だよ!」
ラドルは首だけをミオナに向けて片手を挙げて応える。レフィーリアは軽やかに歩きながらミオナの方に振り返ると、
「大丈夫です!今日は確認するだけですから!」
「ホントだぞ、レフィ!抜け駆けは駄目だからねっ!」
「任せてください!」
遠ざかる二人を見送ったミオナがシュラクスの方に振り返る。
「まあ、仕方ないよね。諦めてナイアドに行きますか」
その隣にいるハティーラは眉をひそめてミオナの顔を見上げる。
「そんなにあのデクノボーと狩猟に行きたいのかにゃ?」
「うーん。まあ、そだね。一回どんな狩猟をするのか見てみたい…かな?」
「ふーん……」
ハティーラが不思議そうな顔をしながらミオナの顔を見上げていると、シュラクスが手を叩く。
「さ、お前ら。そろそろ検閲官が船の積み荷を調べに来るから中に戻るぞ」
シュラクス他、カティス号のクルー達はラドルとレフィーリアを見送って、船の中へと戻って行った。
◇◇
ロンザリドの都市部と停船場は高い壁で隔てられ、停船している船の関係者でないと出入り出来ないようになっていた。
ラドルとレフィーリアは都市部へと入って行った。
「おおっ……」
二人は都市部に入ると思わず声を上げた。
行き交う人、馬車の数。そして街道の広さ、建物の数と大きさ。今まで見たことのないボリュームに圧倒されそうになっていた。
傍から見ればお上りさん丸出しである。
ラドルはポーチから一枚の紙を取り出し、それを広げると、隣にいるレフィーリアもそれを覗き込む。
「ラドル、それは?」
「シュラクスにだいたいの地図を書いてもらった。とりあえずコレを頼りにハンターギルドに行くぞ」
「よ、用意がいいのね」
ラドルが当然だ、と言うとスタスタと歩き出した。レフィーリアもその後ろを忠犬のように付いて歩き出した。
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