第14話 言質
翌日、ラドルはミオナとレフィーリアを連れてルニザクの武器屋を訪れていた。
ラドルはバレルガンの弾丸をいくつか買うと、カウンターの店員に向かって領収書の発行を頼む。それを見ていたミオナが、
「ラドルって、ホントお金の事、キッチリしてるよね」
「当然だ。これは必要経費だからな。ちゃんとシュラクスに請求しないとな」
その二人の横でレフィーリアがいくつも並べられた短刀の前でうーん、と唸っていた。
「あの……。ラドル。剥ぎ取り用の短刀ってどれがいいのかしら?」
「剥ぎ取り用か……。ならこれだな。刃の幅も広いし、刀身の背が
「なるほど……。ではこれでお願いします」
レフィーリアはラドルに言われた短刀を取ると、店員に声をかけた。
武器屋での買い物を終えた三人は、シュラクスから頼まれたお酒を買いに商店に寄り、そして停船場に向かって歩いていた。
そしてミオナが歩きながら隣の二人に尋ねる。
「ねえっ!ロンザリドに着いたら、この三人で狩猟に行かない?」
「えっ!狩猟!」
ミオナの声にレフィーリアがパッと表情を輝かせる。対照的にラドルは眉を寄せて、いかにも面倒臭そうな表情になった。
「何で三人で狩猟に?」
「ええーっ!いいじゃん!ラドル!行こうよ。私達三人だったら、大物も狩れるよ。マジで!」
「イヤなの?私達と行くの」
駄々をこねるように腕にしがみつくミオナ。反対側には目を細めてジト目で見上げてくるレフィーリア。美少女二人に挟まれて、周りから見れば羨ましい限りだが、挟まれた当の本人、ラドルは浮かない表情で大きく溜息をつき、
「まあ、報酬の高い獲物がいたら考える……」
「ふふふ。言ったな、ラドル」
ミオナがニヤッといやらしく微笑む。悪い予感がしたラドルはミオナの顔を見下ろす。
「もしかしてロンザリドは買い取り額がいいのか?」
ミオナが人差し指を振りながら答える。
「違うよ。買い取り相場は各ハンターギルドで共有してるからね。それほど変わらないんだけど……。ロンザリドは街が大きいからね、狩猟依頼……つまりクエストが多いんだよ」
ハンターギルドに依頼される特定モンスターの狩猟依頼。それがクエストである。
依頼主は個人であったり、村単位の団体であったりまちまちで、依頼理由も生活を害するモンスターが現れたから駆除してほしいとか、好事家が自分のコレクションにモンスターの角や毛皮などの特定部位を加えたいとか様々である。
そんな依頼主が報酬を出資して、ハンターギルドに狩猟または討伐を依頼してギルドはハンターを斡旋する。
よって通常の素材買い取りだけよりもハンターは高額の報酬を得ることが出来る。ラドルが主にハンター活動をしていた大陸の東方面ではクエストはほとんどなく、あったとしても
「クエストか……。だが報酬次第だな、やっぱり」
「言質は取ったからね~、ラドル。聞いたよね!レフィ」
「はいっ!」
嬉しそうに微笑む美少女二人に挟まれたラドルを、道行く男どもが怪訝そうな顔で見てくるが、当のラドルの頭の中ではクエスト報酬の算段で一杯だということを周りの人間は知る由もなかった。
三人がカティス号に戻ると、シュラクスから無事に船のメンテは終わり、明日の朝一に出発することが告げられた。
そしてこの日の夜も女性陣四人は街に繰り出し、ラドルはシュラクスと、街で仕入れた新しい酒を酌み交わしたのだった。
そしてトリタはいつもの如く人知れず機関室で一人過ごして、ルニザク最後の夜が過ぎていった。
翌朝、予定通りロンザリドに向けてカティス号は出発した。
予定ではルニザク出発から六日後に到着予定である。この辺りの地域から砂漠でのモンスターの遭遇は激減するだろうとのことだった。
大都市ロンザリドが近く、行き交う砂漠船が多くなるためで、この辺りにはモンスターを哨戒するための巡視船も出ており、その為に生息するモンスターが減っているということだ。
そしてその情報通り、カティス号はルニザクを出てからほとんどモンスターに遭遇することなく、予定通り六日後にロンザリドへと到着するのだった。
その到着の前日の夜。
ラドルはシュラクスに呼ばれ、船長室に来ていた。いつものようにグラスに酒を注ぎ、シュラクスがラドルの向かい側に座る。
「いよいよ明日、到着だな」
「そうだな」
「本当にお前がいてくれたお陰で順調にここまで来れた。感謝する」
「報酬は受け取っているからな。その分はやらせてもらうさ」
「愛想ねえな」
「で、話って何だ?まさかこの船旅の思い出話でもしようってんじゃないだろうな?」
「それも面白そうだが、別の機会にしよう。話ってのはロンザリドに着いてからの仕事の話だ」
そういえば初めて会った時に、ロンザリドに着いてからも仕事があるって言っていたのをラドルは思い出した。あの時はまだ内容を話せないと言っていたが……。
「そんなことも言っていたな。どんな仕事なんだ?」
「まだ内容は詳しくは話せねえ……が、受ける意思があるかどうかだけを確認したい」
「内容が分からないんじゃあな……。何とも答えられねえな」
「まあ、そりゃそうだよな。ただ……おそらく報酬はかなり期待していい」
「ほう……。アンタが報酬を出すんじゃないのか?」
「ああ。依頼主がいる」
ラドルがグラスを手に取り、酒を呷る。グラスをテーブルに置くと、
「その依頼主ってのは信用出来るのか?」
シュラクスもぐいっと口に酒を運んだ。そして真顔でラドルに見る。
「ああ。この船製造の出資者で、身元もガッチリしている」
「出資者?アンタの所有船じゃないのか?」
「俺の船には間違いないんだが、金の大半はその人が出している。とんでもない金持ちなんだよ」
「ほう。そんな人間と知り合いだとは……。アンタとの付き合い方も改めないとな」
「ふっ。正直だな」
「で、どこのセレブなんだ?その出資者って」
シュラクスが勿体ぶるように、グラスに酒を注ぎ足して、また口へ運んだ。
「アジェイール商会の大幹部だよ」
アジェイール商会。
売っていない物はないと呼ばれるほど巨大で、この大陸で商人をしている者ならばその名は知らぬ者はいないと言われるほど有名な大商会だ。
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