カーボンニュートラル

 市長、良いやつだったが残念だ。ガキの頃かちょっと痛いやつだったが、行動力があり、面白いことを考えて率先してやっていたな。だから俺たちも、この茶番に付き合ったんだが。農園はなかなか性格が悪いから人が壊れてゆく様をアリーナ席で見たかっただけかもしれない。俺は市長の遊びに付き合っただけだが、バカ騙すのは面白かった。

 仮店舗で耕作放棄地に勝手に生えた野菜を完全無農薬野菜として売ったら移住者にバカ売れしたので、味は二の次、情報、意識高い系の情報を付けた商品を取り扱おうと立てたのがこの田園調布山田だ。

 情報を売るのだから、店の中も意識高い系で売っている詐欺師のようなコーディネータを雇った。こいつの良いところは、どうやったらバカを誑かすことが出来るかを詳しく教えてくれることだ。商品の価格付け一つにしても、あえてぼったくり価格を付けることで、客が勝手に付加価値を創造してくれるとか、逆に安くすると、商品の欠点を勝手に造りだすとか、値引きするなら廃棄しろとかいろいろと有意義なことを教えてくれた。報酬は安くは無かったが、おかげで田園調布山田の収益は莫大なものになった。

 オリジナルのエコバックにしても、1個1000円もするが、1年もすればヘタって買い換えないと行けない。しかも、エコバックを使うほうが温室効果ガスの排出が多い。まあ、ファッションだから、使うほうは気にもしてなく、「エコな私ってかっこいい」とでも思っているのだろう。どっちみちゴミ袋は必要になるから、レジ袋をそのままごみ袋にするのが一番エコだろう。まあ、このエコバックは原価100円だから大儲けだ。50円ほど募金にまわしているが、「エコバックの代金の一部は環境団体に寄付されます」とでも書けば、値段は誤魔化せる。500円でも1000円でも買うほうにはあまり関係ない。俺にとっては懐に入ってくる金が大きく違うが。

 だが、祭りは終わりだ。ここにいれば今まで楽しんだ代価を払わされてしまう。だから俺は、店を売ってこの町を出ることにした。二束三文にしかならなかったがそれまでの収益でしばらくは遊んでくらせるだろう。結局は先祖代々の土地を売り払って金に換えただけだ。畑はビルやアスファルトになり、森も開拓されて、何がCO2削減なんだろう。考えればわかることなのに、エコバック使うなら頭を使え。まあ、ここも、いずれ廃墟となり、自然に帰るだろう。究極的に言えば、炭素なんて安定した元素なんだから、たいして増えも減りもしない。状態が違うだけだ。CO2が増えれば、草木や海藻も増えて吸収するし、少なくなれば草木も減り、吸収量が少なくなって、復元するだろう。短期的に見れば多い少ないだの言えるが、そんなに気にすることは無いだろう。本来は。だが、金になるから、つまり環境ビジネスとしていいネタだから、皆飛びつくのだろう。詐欺をするにしても、地球環境を守るとか言えば騙される奴も多いし、騙すほうも罪悪感が無い。そのうち化けの皮が取れるだろうけど。

 農園はこの町の崩壊まで見たいから、今まで通りやっていくらしい。俺はよそで増えた分だけ金を使い、減れば稼ぎ常にニュートラルな状態にしておこう。田園調布山田がどうなるか知らないが、都会に出て、また何か面白いことを探さないとな。


 そして、山田は都心のタワーマンションに移り住んだが、資産の大部分を大型投資詐欺にあって失った。結局、彼のお金もニュートラルな状態になったのである。

 この町は、山田の予想通り、外資により活性化するが、日本人は解雇され、世界中から人材が集められることになる。それは、あたかも某国の様に、外国人の為の町となり、日本人は清掃員やドライバー、家政婦にしかなることは出来ない。もちろん、稼ぎだした利益は全て外資企業が持っていく。ある程度、町に金を落としていくので、悪いわけではないが、外国人との格差と町が乗っ取られる危機感、生活習慣の違いなどによる治安悪化が深刻化し、また、隣国も似たような制度を引いて誘致を始めたため、瞬く間に企業は撤退して町は荒んでいった。国としては、地域を活性化させ、国民生活の向上、税収アップを目指したのに、外資のタックスヘブンに使われただけだった。市長の考えが正しかったが、反省などはしない。当時の与党はこれらの失政により下野し、関係した議員は落選をしたが、たいして変わり映えのない議員、政党が与党になっただけだった。




 

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