インパクトインベストメント
「社長、プロジェクトの進行が遅れてます。このままでは、契約不履行となり違約金を支払うことになります。人員の追加をお願いします。この計画にこの人数では到底実施できるものでは無かったのではないでしょうか」
直立不動で俺の返事を待っている部門長の顔は青ざめていた。
「で、何人必要なんだ」
「2人、いえ、少なくとも3人は必要です」
「分かった、計8人いれば良いのだな。他のプロジェクトから引っ張って来よう」
「有難うございます、社長」
「ああ、で、お前は何をするのだ」
「え、何をとは、私はこのプロジェクトの遅れを取り戻し、納期内に完納出来るように管理、運営します」
「なるほど、この程度のプロジェクトで8人もいればマネジメントなど必要も無いが何をするか教えてくれないか」
「いえ、お言葉ですが、労基が厳しくなった現状では人工を減らして工期通りにプロジェクトを進めることは不可能です」
「なるほど、お前は出来ることしか出来ないプロジェクトマネージメントと言っているのだな。お前はワーカーが働いているのを見ているだけで、通常の倍以上のサラリーが貰える美味しい仕事をやっている訳だ」
「いえ、そういう訳では」
「では、おれが、このプロジェクトを5人でやれといっているが、お前は無能だから8人必要と言って、無能であるにも関わらず、破格の給与を貰うというわけだな」
「社長・・・」
「俺も舐められたものだな、誰でも出来る仕事に高給は出せないな。それなら、現場のプロジェクトリーダーに全権を任せて、プロジェクト自体は俺の直下にする」
「いや、それは」
「何しているのだ、もうお前には仕事は無い。つまりクビだ」
「社長、申し訳御座いません。5人でやり遂げてみます。なにとぞ、解任だけは」
「そうか、4人でやってくれるか。ちなみにお前は執行役員だから、このプロジェクトで会社に損失を出したら、お前の個人資産含めて責任取れよ」
青ざめた男を手で下がらせて、秘書に飲み物を持ってこさせた。相変わらず良い女だ。彼女が持ってきたのは、アルコールもカフェインも取らない俺に合わせて、常温のミネラルウォーターと共に爽やか香りのハーブティーだ。バカのせいでささくれた気分も少しはマシになった。このプロジェクトが終われば、あいつを解任して彼女を役員にするか。昼も夜も気が利くからな。彼女は良く分かっている。仕事だけでなく、プライベートも俺の気分を良くすることが、会社の利益になり、業界の発展、社会貢献になることを。この後で彼女を激しく攻め立てる姿を想像したが、今日は家に帰らないと行けない。何回目かの結婚記念日か妻の誕生日だったと思う。変える前に秘書に確認させよう。これで嫉妬すれは、次の夜は激しく燃えるだろう。しかし、あのバカは4人でどうするつもりだろうか。まあ、俺の知ったことではないが、見えないところで労基を破ろうと仕様で手抜きしようとあいつの責任だ。あと数か月もすれば、俺は社長を退任する。持ち株会社を設立して、ダミーの経営者を立てて俺はペーパーカンパニーで利益を享受する。表舞台には出ないから、リスクは他人にまかせて利益は俺が貰える。ただ、俺は自己利益のためにやっているのではない。つまらないことで俺の様な人間にキズがつくことが無いようにしているだけだ。実質、持ち株会社もその下の会社も俺が経営するし、俺が儲けることで業界活性化するのだ。その為に、ワーカーや使い捨ての役員がどうなろうが知ったことではない。家族も女も俺の為に存在しているのだ。そんなことを考えていると劣情を催してきた。秘書に車を用意させようとした瞬間、インターホンが鳴った。秘書が出てが困惑した様子で話しかけてきた。
「社長、国税局の方が来られてますが」
「どう言うことだ!」
「分かりませんが・・・」
「失礼しますよ」
と言うと、スーツ姿の男たちが事務所に入ってきた。
「・・さん、脱税容疑で強制調査に入らせていただきます。そこ、動かない様に」
一体何を言っているのだ、こいつらは。俺ほど社会に貢献している人間に脱税の疑いをかけるとは。
「酷いものですな。ここまで会社を私物化しているのは珍しい。暴動が起きるレベルで従業員から搾取しているし、経理も二重帳簿で偽装か。かなり悪質ですから追徴金だけでは済まないですよ」
唖然として、座り込むと、目の前に封筒が出された。
「これは関係ないからお返ししておきますよ」
その中には、妻から送られた緑色の紙と秘書やその他の女と一緒にいる写真だった。
「慰謝料も大分、絞り取られるようですね。ご愁傷様」
男は、気を失うように座り込んでいる。私は気づかれない様に外に出て電話をかけた。
「先生、予定通り国税局が来たみたいです」
「君には苦労を掛けたね。おかげで大事に至らずにすんだよ」
「この程度よければ、いつでもお手伝いしますよ。借金を肩代わりしていただいた恩もありますし」
「気にしないでくれ。町を出たと言え、この町に生まれた人間が苦労しているのはみるに堪えないからな」
「有難うございます。しばらくは身を隠しますが、また何かありましたらご協力させていただきます」
まったく、馬鹿な男だ。大人しくこの町で遊んでいれば良いものを、ここでの稼ぎをペーパーカンパニーに移して、自分は海外で暮らすなんて。当然許されるわけがない。この町で得た利益はこの町に還元しなければならない。町の中で金が循環することで、この町が潤い、市民生活が向上する。その結果、盤石な市政が行えるのだ。まあ、代りはいくらでもいる。新たに誘致しても良いし、あの会社の大人しそうな役員を盛り立てても良い。この町に貢献するものには寛大な対応をするが、この町から利益を奪うものは、徹底的に排除する。利益を外部に出させない。
そう、それが、私のエミッションゼロだ。
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