第13話

「よいしょっと

あ・・・」


病室で、特殊な カップを 持ち上げるが

中身の、お茶が空で 喉を潤せない 男。

両手の、指が欠損している。


カチッ

ポーーッ

ポーーッ


ナースコールを、鳴らす 男。

以前、急須から カップに注ぐ時に

ひっくり返してしまい

下半身と、ベッドが ずぶ濡れになり

幸い、急須が 冷めていたので

ケガには、ならなかったが


『はい』


天井の、スピーカーから

声が、響く。


「看護士さん」


『はい

どうされました ??』


「あの お茶が 切れちゃって・・・」


下半身と、ベッドが お茶で濡れた時に

女性看護士が、すぐ全裸にして

くれて、ケガが無いか確認して

くれたので、助かった。


『はい 今 行きまーす』


カチッ


パタッパタッパタッ


小走りで、やって来る 看護士

勢いよく、病室のドアを 開ける。


「はーい」


ニヤニヤしている 看護士。


「ごめんなさいね 看護婦さん

この前みたいに 急須を落とすと

いけないので」


反省しきりの 男。


「あっ 全然イイんですよ

こっちが そう言ったので」


急須を、一人の時に 持ち上げないよう

決まってしまっている。


「助かります」


入れたての お茶は、まだ 熱々だ。


「はーい

あれっ 湯飲みが よごれてるから

洗ってあげますね 六郎さん」


六郎は、病院が 勝手に付けた名前で

実際は、どこの誰だか わからない。

本人に、記憶がないのだ。

いわゆる記憶喪失の状態にある。


「はい ありがとう」


礼を言う 六郎


「いいえ」


部屋にある、洗面所に入って

カップを、洗う 女性看護士。


「あなたみたいな

娘が いたら イイな」


遠い目をする 六郎


「えっ なにか 思い出しました ??」


ちょっとした、キッカケで

思い出すこともある。


「いいえ 全然 思い出せないんです」


苦笑いする 六郎


「そうですよね」


ニコッと、笑う 女性看護士


「たぶん 童貞でしょうね ワタシ」


ベッドに、座ったまま 下半身を

見つめる 六郎


「えーっ

モテそうなのに それはないと

思いますよ」


洗い終えて、振り返る 女性看護士


「そうかなー」


頭に、手を置き 照れ笑いする 六郎


「もし 独身だったら」


なにかを、言いかける 女性看護士


「うん?」


顔と顔が、接近する。


「・・・いえ

なんでも ないです」


その頃


「ねぇ 木幹 ??」


楽屋の、テーブルの上に

置いてあった、アンケートを手に

質問する 多香緒


「うん?

どうしたの 多香緒ちゃん ??」


なにか、気にさわったかと

心配になる 木幹


「楽屋に アンケートが 置いてあったけど

木幹が 置いたの ??」


こういった、アンケート用紙は

手渡しだったが、今回は

テーブルに、置かれている。


「あっ うん

あとで説明しようと 思ったんだけど」


及び腰な 木幹


「なんか ラップが出来る人を

探しているような内容だったけど」


ザッと、目を通した 多香緒


「うん そうなんだ

女性で ラップバトルが出来そうなコを

集めて 年末年始の 特番に 出場させる

ことになってね」


男性は、すぐ集まったが

女は、なかなか 難航している。


「へー」


複雑な、表情の 多香緒

もちろん、名前が売れそうならと

考えている。


「それで まずは 選考と

予選を やろうってことになって」


3人いることを、確認して

説明を、はじめる 木幹


「ウチらは

バンドは 目指しているけど

ラップは 未経験だからなぁ」


首を、かしげ イリヤを見る かなえ


「そうそう」


同調者する イリヤ


「うーん

なかなか いないよね~」


アゴを、さわる 木幹


「うん・・・

あっ」


なにかを、思い出す 多香緒


「多香緒ちゃん どうしたの ??」


表情が、明るくなる 木幹


「いぶきちゃんなら ラップを

やってたって 前に聞いたような」


記憶を、たどる 多香緒


「それは 誰だろう ??」


下の名前だと、判断しかねる 木幹


「クラスメイトに

知多 いぶきちゃんって言う子がいて

あの子なら ラップが出来たと

思って」


学校の、友達のことを言う 多香緒


「知多 いぶきちゃん・・・

ウチの 事務所に いなかったっけ ??」


どこかで、聞いた 木幹


「そう 所属は シーリングっこ。の

下部のジュニアだよ」


色恋レボリューション21で、有名な

グループと、同系列。


「それなら 連絡が 行ってないかな ??」


その頃


「順次 差し入れを

取って行ってくださーい」


「はーい」


一世を風靡した、シーリングっこ。は

メンバーを、新陳代謝させながら

人気を、維持している。

上下関係の、厳しい グループ。


「今日は 大学イモ入りパンプキンパイ

栗の モンブランかけ マンゴーソースと

あとは 納豆巻き寿司パンの

2種類だから どっちか 1個だよ~」


珍しく、差し入れの説明がある。

焼きそばを、パンに入れるのに

あきたらず、今度は 納豆巻きを

入れてしまう暴挙。


「先輩は どっち食べるんですか ??」


わかりきったことを、白々しく聞く

後輩の メンバー。


「みんなは パンプキンパイの方を

取るでしょ

だから 後輩は 納豆巻きを

取ってね」


この後輩は、まだ メンバー入りして

いない、知多も 含まれる。


「はいっ」


一斉に、返事する 後輩たち。


「あのー」


一人だけ、手を上げる 知多


「どうしました?知多っち」


先輩が、目を細めて聞く。


「先輩こそ 納豆巻きパンを

食べるべきです」


断言する 知多


「そっ

それはなぜ ??」


自信満々な知多に、たじろぐ 先輩。


「それは 健康の為です !!」


ビシッと、言う 知多


「なるほど

でも アレって 炭水化物に

炭水化物だから プラマイゼロの

ような・・・」


炭水化物を、掛け合わせる手法は

かつても、賛否両論あった。


「いや それは パンプキンパイにも

言えることで」


と、核心を 突く途中で


ヴィーヴィー


知多の、スマートフォンが 鳴る。


「あっ 着信だ

ちょっと 待ってください」

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