第9話 無能
「なんで、私なの?」
そうノワが問うと、
「誰を生き残らせるのが以降の
トマスも疲労困憊ゆえか言い合いを避けたいのだろう。明け透けに事情を説明してくれた。
「最も憂慮すべきは
そうトマスが問うと、残るメンバーの誰一人からも反対の声は上がらなかった。
まだ技術的に稚拙なエルケ班の
誰一人、まだ死にたくないなんて弱音を吐いたりはしない。
訓練校を卒業してからずっと戦い続けてきた彼らはもう――悲しむべきことかもしれないが――
「足止めぐらいはやってみせる。領兵と共にアルセリア市民の西への非難誘導と、あと本部への報告を頼む。エルケ。信号弾を」
「了解」
エルケがもう殆ど残り少ない色素をかき集めて、
「【
兵舎の上空に赤色を打ち上げて、爆散させる。
あくまで勧告なのは
だが唯一
それでも不満というのは出るもので、
「おい、赤信号ってどういうことだトマス!?」
「その様子からしてさっき
「事前勧告も無しに赤玉ってのは無茶苦茶だよ! もっと事前通告みたいなのもできたはずだろう!」
あっという間にアルセウスの街の住人たちがパニックを起こしてアルセリア支部へと詰め寄ってきたため、
「傾注!」
トマスが左右の
「先ほど俺たちは
刃こぼれした
さもあらん。もしここで仲間を囲い時間を無駄に消費させるつもりなら、人垣を切り捨てて進むことも躊躇わない。そんな気配をトマスは全身から立ち上らせていたからだ。
「いいか、現状を分かりやすく言ってやる。今すぐ最小限の財産を持って西門から逃げろ。それが命を長らえるための現時点での最良の可能性だ。
そうしてトマスを戦闘にハリー、ユアンが続き、エルケ班のアル、カミル、ホークがそれを追って、
「今まで私が言ってたこと、ただの嫉妬だから」
「え?」
エルケがこれ以上無い程穏やかな笑顔で、そっとノワに微笑んでみせる。
「貴方が私より優秀だから憎らしくって、だから貴方が嫌がりそうなことを言っていただけ。気に病まないで。あと、任せたわね」
そうして儚い笑み一つを残して、エルケもまたトマスたちの後を追う。
もう色素なんて【
蜘蛛の子を散らすように去って行った市民のことなど、ノワにとってはどうでもよかった。正直彼らが生きようが死のうが、それで心は動かない自信がある。
だが、だけど、
「こんな、こんな終わり方があってたまるか!」
ドガン、とノワは拳を兵舎の扉に叩き付ける。
こんな終わりが許せないから、いい人から先に死んでいく世界が許せないから、自分は
世界が
だというのに、
「私は、また――こうやって、見ていることしかできなくて――」
ポーチに膝を付くと、涙がぽたぽたと足元に染みを作り始める。
――『ノワ、貴方まだそんなところを這いずり回っているの?』
「……ああ、そうだよ。私はまだこうやって這いずり回っている」
この手の内にある
この期に及んでノワにできることは、仲間が虐殺されながら時間を稼ぐのを、ただ見ているのみで。
そんなことをするために
できることはもう、それしかなくて――
いいや、違う。
ノワはついている。実に運がある。
だって、一人の青年が
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