第7話 ドラコー
「【
一瞬にして黒く染まった
「! 脱ぎ捨てた!?」
エルケが息を呑んだように、そう。
お返しとばかりに
そこから先を知っているノワは、
「散開! 狙われたら運が悪かったと思って諦めて!」
トマスに断りもなく指示を出し、それに誰もが素直に従った。
そうして
――ゴガァアアアアァァアアアアアッ!!
口より吐き出された
走り抜ける
「……指向性の、
なんとか回避したユアンがそう呆然と呟くとおり、
だからこそ、付けられた名前が
「拙いぞトマス! 戦場が二分された!」
ややあってその事実に気付いたハリーの顔からは血の気が引ききっている。
幸い
「あれは私が相手をする! 取り巻きは任せた!」
「……わかった、頼んだぞノワ」
了承を受け、最早他の
――ルゥオォオオオオオオオーン!!
「煩い……」
ただ闇雲に色を塗呪するだけではあの
倒すには奴が鱗を脱ぎ捨てるより早くに内側まで染め抜くか、もしくは鱗を脱げないように拘束するか、だ。
そしてそのどちらも並の
――ルゥオォオオオオオオオーン!!
「叫ぶな!」
良くも悪くも、【黒泥】ノワは並ではない。
左手の
先ほどとは逆の向き、即ち糸を紡ぐのではなく、紡いだ糸を放出するように。
「【
世界を編むのは
漆黒の投網が巨体を縛り付け、剥離による脱色を阻止しながらじわじわと
――色の透りが遅い……! 流石にタフね……ッ!
流石に一瞬では染め上げられず、動揺した隙を付いて長い鞭のような尾がしなり、
「チッ! やる!」
投網全体ではなく、その根元、
――ルゥオォオオオオオオオーン!!
ノワの束縛から解放された
そこそこは浸透したようで
今度はこちらの番とばかりに振るわれた爪を躱すも、そちらは囮か。
横薙ぎに叩き付けられた尾に軽々とノワの痩躯は吹き飛ばされ、宙を横に飛んで落下。ゴロゴロと地面を横転し木の根にぶつかって動きを止める。
「ノワ!」
耳朶を叩くは誰の声か。くゎんくゎんと耳鳴りが響いてノワには良く聞き取れない。
「よそ見……してんなぁ……!」
ふざけるな。
ふざけるなふざけるなふざけるな。
たった一撃食らった程度でおねんねなどしてられるか。そうとも、たった一撃食らった程度で、
歯を食いしばる。
右手の
左手の
口の中を切ったか、血の味がする。視界が赤い。額も切れているのか。
笑う膝が鬱陶しい。何をやっている。お前は人間を二本の足で立たせるのが仕事だろうにゲラゲラ笑っている暇があるか。
立て。
立って立ち向かえ。
戦って
さもなければ、
――『ノワ、貴方まだそんなところを這いずり回っているの?』
あそこには――
あの一言を言い放った女の元には――
あの傲慢チキで鼻持ちならない女の喉元になんて――
「いつまで経っても届かないじゃないかぁ!!」
目指した場所に手を届かせるために。
そこへ至る階に足をかけるために。
一歩一歩、歩いて、上っていくためには――
「こんなところで死んでられないんだよ、私は!」
だからノワは奥歯を噛み締めて立ち上がる。
苦痛に喘ぐ体を叱咤して立ち上がる。
「いいよ、正面勝負なら望むところだ」
杖頭部を
「此なるは女神ラクテウスに捧げし我が
射線上の全てをほどくために。
射線上の全てを
だから、ノワも全く同じことをする。
「魂より湧き出でよ我が原色、全てを呑み込め! 【
如何なる色をも呑み込んで塗りつぶす、光をも呑み込む暗黒の濁流があらゆる色を分解する指向性の
――アアアアァァアアアアアッ!!
「煩い……!」
ジリ、と押し負ける。
ふざけるな。私の
自分の内から湧き出でる慟哭はこの程度か、この程度の濃度しかないのか。
ふざけるな、そんな馬鹿な話があるか。
――アアアアァァアアアアアッ!!
「叫ぶなぁ!」
これは自分との戦いだ。
ノワにはできるのか、できないのか。
今この場で問われているのはただそれだけだ。
敵は常に目の前にはおらず、自分自身の中にいる。
「鬱陶しいんだよ! お前の声は!」
燃やせ、真っ黒に燃やせ。
命を燃やせ。
魂を燃やせ。
それでも足りないだなんて――絶対に言わせない。
怒りに満ちた目で
「くぅたぁああああばぁああああれぇえええええッッ!!」
そして、
脱ぎ捨てる隙など刹那すらない、あまりにも暴力的なそれが、ノワの
「トマス!」
「任せろ!」
――嘘だろ、全身が完全に染まってるんだぞ!?
その硬度に、トマスは戦慄する。
落とせない。
首を、落とせない。
今の
最凶ではあるが凡才ではないノワと違って、トマスはただの凡人だから切り裂けない。
だから、ならば。
「せー」「のおっ!!」
右からハリーが。
左からユアンが。
己の二振りの
そうして、ゴトリと
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