第6話 レギオ
まず姿を現したのは、子犬ほどの大きさしかない
壁となって迫るそれにノワが
圧倒的だ。この漆黒に
だが、
「ちっ、あっちはどうやら今日は本気らしいぞ」
動きを止めた
だが、
「今日ほどノワを頼もしいと思った日はないぜ」
そうユアンがからかうように笑う。なにせ
だがノワの初撃もそこまでが限度である。
同胞を踏み越えて現れた
――ルゥオォオオオオオオオーン!!
大地を踏みしめて、
それは同胞たちに踏みつけにされた漆黒の
「攻撃開始。ノワは期を見て洗いざらいぶちまけろ。
「……っ、了解」
トマスを先頭に、
ここから先は混戦になるから、ノワが一切遠慮せずに撃てば、トマスたちすらも砲撃に巻き込むことになる。
そしてトマスは、それを躊躇するなと今ノワに命令したのだ。
――
あり得ベからざる色の塗り替えには、生物、物質、
だが、それでも存在強度は少しずつ削られていく。程度の差こそあれ、本来の色でなくなれば
ノワの
だがそれによって
そして、何より。
――昼に地面を巻き込めば、そこからも
ノワが塗呪投射を躊躇うのは何よりもそれが嫌だからだ。世界にはあるべき色があり、矛盾した色を置けば存在強度が失われてやはり世界はほつれていく。
これこそがノワが普段より【黒泥】と忌み嫌われる最大の理由である。普通の
しかし黒しか扱えないノワにはそれができない。ノワの
――これはもう、焦土戦術だ。
この土地で生まれたトマスたちはだから、そんな加減の効かないノワを毛嫌いしていて、しかしそのトマスがついに「迷わず撃て」との判断を下した。
ノワだって人の子だ。その判断がどれだけ心苦しいかは想像が付く。自分の手で自分の故郷を壊す命令を下すなんて――
「ノワ、命令でしょ。迷わず撃ちなさい」
肩を小突かれて振り返れば、エルケが己の
確かにノワが黒をばらまいた上からノワが肌色を塗呪すれば、トマスたちの消耗は最低限に抑えられるだろう。
だが、土地の負担はどうやっても消し去れない。エルケの色素量は凡百のそれなので、ノワの手で黒く塗られた地面全てを茶色に塗り直すなど不可能。精々皆の肌を塗り直すのが限界だ。
「どれだけ削られても、生き延びれば明日を迎えられるわ。でも負けたら全てが終わる。やるしかないのよ」
そうエルケに強い口調で語られて――ノワも覚悟を決めた。やるしか、ないのだ。
「トマスたちには前髪は諦めて貰おう」
ノワもまた
ノワは普通の
「ハリーは幸運ね。支部で唯一の黒髪だからハゲずにすむわ」
エルケもまたノワの軽口に付き合って笑う。
笑えるのはいいことだ。たとえ作り笑いであろうと、心はそれだけ奮い立つのだから。
トマスらが
――
トマスらが三人がかりで挑んで一蹴されかけた
ノワの支援無しでは、トマスらはここで終わる。ここで終わらせてはいけないから、だからノワはヴェルセリアの林を終わらせると決めた。
「皆、余裕があったらフード被って!!」
前線を維持している
「【
斜め上に構えた
線の攻撃であった【
上空からの漆黒の雨は、どこに避けようと
そして色さえ付いてしまえば、さしもの
「ノワ、エルケ来てくれ! 今のうちに紡績頼む、少しでも回収しておきたい!」
『了解!』
あらかた首を落とし終え、周囲が糸の山だらけになった林が、少しずつほつれていく。
この林を――たとえ黒泥にしかならなくても、再生させるための糸は必要だ。たとえ真っ黒の、それ以外にはもう染まらない糸であっても。
敵増援の来る間隙を縫って、
「紡げ、
ノワとエルケは
大量の糸だ。だがこれを投じてなお、ノワが塗り払った面積を再生させるのが精一杯で
だが、維持はできる。かろうじてまだ
たとえそれが実り豊かな林ではなく、何も生み出せない黒泥だとしても――
§ § §
そうやって、何回か
突如として、大気が震える。
これまでのそれとは比較にならない
「紡績中止、迎撃態勢!」
『了解!』
そうして、姿を現したそれを前に、誰もがただ怖気の籠もった息を呑むことしかできない。
その体格は、トマスたちの十倍超。体積に至っては三十倍を軽く超える。
半透明の体に大量の鱗を貼り付けて、人宜しく二本の脚で地面を這いずる様は醜悪の一言。
長い尾は鞭のようにしなり踊って、それが地面を叩くだけで、雄叫びもなく地面がほつれる。
「な、なんだ……あれ」
トマスらは見るのは初めてだろう。エルケも呆然とただ見上げるだけの有様からして同様だ。
だが、ノワは見たことがある。訓練校に入る前から、家の方針で
「
ここでこいつと出会うことになるとは思わなかった。
だが、ある意味では好都合だとノワは
記憶にあるのは、地を埋め尽くすほどの
悲鳴と罵倒と、絶望色に染まった声。
一瞬にして最初からなかったかのように消え去った街。
「一体だけだ――そう、たった一体だけなら……この私が塗りつぶしてやる!」
お前たちには負けられない。
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