加来凪子は口裂け女と口裂けババアを許さない

三

――25年後。

【口裂けババア】

　娘が言うには、口裂け女とはまったく別の存在であり、奇声をあげて子供たちを追いかけまわすのだという。

　子供が嫌いで捕まえて公園のトイレに監禁し、子供の口が裂けるまで執拗に殴り続けるらしい。

　特徴は赤いコートに長い白髪。手には分厚い黒の手袋。顔半分を覆うマスクは子供の返り血で赤く染まり、ひどい猫背で背中がエビのように曲がっている。

　足は口裂け女より速くないが、その分、力が強く執念深い。一度、マークされたら、家の中にまで出没し夢の中でも追ってくるのだそうだ。

　夢の中で口裂けババアに捕まったら、最後、あの世に連れていかれて二度と目を覚ますことはない。

　助かる方法は、動物の毛（動物ならなんでもいいらしい）を体の目立つ場所につける。マークされたら枕元に鏡を置くか、塩を枕にふりかける。

　元は精神病院から逃げ出した患者で、精神が病む前は動物好きの心優しい女性だったそうだ。

　飼っていたペットを近所の小学生にイタズラ半分の殺された経緯で精神を病み、動物の毛を見ると正常だったころに一瞬戻るのだという。

　被害は娘のクラスメイトーー佐々木 弓子の他に、今月に入って四名。

　学年はバラバラだが、娘が通っている学校の生徒で帰りの通学路で襲われたのだと、莉生は母に語った。